切ないってこういうことかな。森鴎外『舞姫』の真相

 f:id:lyacchyl:20150222200707j:plain


蝶が羽を動かすと、空気中の微粒子を動かし、

それがほかの微粒子を動かし、さらに多くの微粒子を動かす。
そうしているうちに、やがて地球の反対側で竜巻を発生させる……

バタフライ効果と呼ばれるこの現象。これをテーマにした映画を先日見た。
主人公はいわゆるタイムトラベラー。

望みはたった1つ
「幼なじみの女の子と一緒に幸せになりたい」ってだけ。

何度も過去に戻って1部をやり直す。
現在に戻るとその1部の変化で,現在が大きく変化している。
まさにバタフライエフェクト

でもなかなか上手く行かない。

たくさんの苦労を経て,結局最後は,彼女と出会った瞬間に戻り
彼女にひどいことを言ってそれっきりの関係になる。

自分と彼女との良い思い出は,違う未来を選択したときだけのもの。
自分の記憶の中だけにある。彼女は知らない。

それぞれ別の道で幸せに暮らす現在を選択する。

ラストシーンは,
偶然大人になった2人が,街中で出会うシーン。

すれ違ってお互い振り返るのだけど,
また自分の道を進んで行く。

綺麗だけど鬱な有名なアニメのラストに似てる。

実は,この映画には,これぞハッピーエンドなラストも撮影されていた。
観客みんなが望んでいたであろうラスト。
でも監督は,それじゃダメなんだと解説してた。
あんなに苦労していたのに,主人公は何も学んでいないことになる。
話の整合性がないって。


好きだからこそ手放す。
そんな愛情って
いつの時代にもあるらしい。


空色の繻子に,金糸の刺繍が入ったハンカチ入れ。
森鴎外は,死ぬまでこのハンカチ入れを
大事に大事にしていたらしい。

森鴎外の経験がモデルだとされている『舞姫』。
主人公は,留学先のドイツで,
スラム街に住む仕立物師の娘である若い女の子,
エリス・ワイゲルトを恋人にし,
その恋人のお腹には赤ちゃんもいたのに,
別れを告げ,彼女を発狂させ,
自分1人だけ日本に帰る物語。

なんて最低な男だという印象を持っている人も多い。

ただ,この物語がそのまま現実に忠実なら,
先ほどのハンカチ入れに謎が残る。

ハンカチ入れに使われた良質の材料,金糸を使った高度な技術。
良家の子女を思わせるものなのだ。

森鴎外がドイツで愛したのは,本当は誰だったのか。
そんな研究が行われているらしく,
その特集を見て驚いた。

それはモノグラムというものを中心に語られていた。

f:id:lyacchyl:20150222201102j:plain



森鴎外の遺品として,残っているモノグラム。
森鴎外の本名である森林太郎のイニシャルをデザインしたものが,
薄い金属にいくつも彫られたものである。

モノグラムは,刺繍をするときに,型として使われる。
いくつもあるデザインをみると,
豊穣を願うサクランボがテーマだったり,
幸せが周りにも行き渡るようにという意味で,
文字の周りに下向きの馬蹄を描いたものだったりと,
どれもセンスの良さを感じさせるものばかり。

当時のドイツでは,婚約をすると,
男女の名前を入れたモノグラムを作ったと言われている。
森鴎外の持っていたモノグラムにも,
ひっそりと隠し文字としてそれは彫られていた。

森林太郎のM・R

そして A B L W

森鴎外の話で有名なのは,ドイツから彼を追いかけてきた女を追い返したという話。
当時の乗船記録を見ると,
確かにエリーゼ・ヴィーゲルトという女性が見つかる。
Elise Wiegert
Wはモノグラムにあるが,Eはない。
ただ,乗船記録に,一等船室の客として記されており,
彼女が多くのお金を持っていたことが推測される。

ヴィーゲルトという名を手がかりに,1888年のベルリンの住所録を調べると,
アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルトという女性が見つかる。

Anna Bertha Louise Wiegert

モノグラムにぴったり一致する。
彼女は,仕立物師の娘。
家族は,部屋を貸して収入を得ており,十分にお金がある。
当時ドイツから日本への船は,40日間かかり,
森鴎外の留学費の半額ほどの値段がした。
しかし,彼女の家の収入で換算すると,
ほんの2ヶ月分ほどだったと推測されている。

アンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルトは,
十分に日本へ森鴎外を追って来れたことになる。

当時の日本とドイツの船の規定を調べると,
ドイツからの渡航は,チケットさえ持っていれば,
パスポートを持っていなくても,たとえそれが未成年の女の子1人でも,
相手国がパスポートの提示を要求しない限り,船に乗ることができた。

日本は,パスポートの提示は要求せず,乗客の名前のリストのみを要求し,
たとえそれが偽名でも良かったとされている。
エリーゼ・ヴィーゲルトとアンナ・ベルタ・ルイーゼ・ヴィーゲルトが,
同一人物だったと推測できる条件がそろった。


アンナについてスポットを当てる。
アンナの年齢を考えると,林太郎と恋に落ちたのは,彼女が15歳のときである。

アンナの両親は,父がベルリンに住むカトリック信者,
母がマグネブルクに住むプロテスタント信者。

土地を乗り越え,宗教を乗り越え,結婚した2人。
きっとアンナと林太郎の結婚にも,賛成したのだろう。

モノグラムは隠し文字だけが,手彫りであった。
当時こんなに凝ったものは珍しく,
2人の婚約を記念して,アンナの父が彫ったのかもしれない。

遠い遠い国へ娘を見送る。
この父親だったからこそできたことである。


陸軍士官の国際結婚は認められず,破ったものは罷免となる。
当時の決まりだった。
しかし林太郎は決意していた。
「恋人を来日させる。罷免されても構わない。」
上司にそう断言している。


数日遅れでアンナが日本に着くよう手配し,
先に日本に着いた自分は,
家族にも恋人を連れてくると告げていた。
家族を説得し,陸軍省を説得し,
アンナと結婚するのだと固く決心していた。
説得の間,アンナは築地のホテルに住ませていた。


しかし,説得に時間がかかり,借財は大きくなる一方。
説得されつつあった母は心労で痩せて行った。
母を取るか,恋人を取るかをせまられ,
結局1ヶ月後,アンナは林太郎に見送られながらドイツへ帰って行った。


追い返したなんてとんでもない。
きっと,ずっと見送っていただろう。
アンナも,あの森鴎外が愛した女性。
きっとその思いを理解して,帰って行ったのだと思う。


その4ヶ月後,森鴎外は結婚した。
父を亡くして,1人,家族を支えるために,良家の娘と結婚して…
という責任が彼にはあったようだ。

f:id:lyacchyl:20150222201309j:plain


その後『舞姫を発表。
現実の物語とは全く違う。
アンナには何も危害がいかないように
全く異なる女性を描いたのだろう。

林太郎は死ぬまでアンナと文通を続けていたらしい。
全部保管していた手紙を,死ぬ間際,自分の目の前で燃やさせたそうだ。

全て相手を思ってのこと。

舞姫が発表されて120年。

私たちは,ずっと林太郎に,嘘を握らされていたのだ。

林太郎はアンナを守り通した。

実はハンカチ入れとモノグラム以外にも,
その証拠を示しているものがある。

森鴎外は,
娘に「杏奴:アンヌ」
息子に「類:ルイ」
と名付けているのだ。

アンナ ルイーゼ…。


アンナはというと,
ドイツで結婚し,子どもを持ち,孫を持ち,
幸せに暮らしたらしい。

そしてアンナは子どもに
「リズベット」と名付けたそうだ。

リズベットはエリザベットの愛称。
エリザベットの愛称には,エリーゼもある。

おそらくエリーゼは,
林太郎との間だけでの呼び名だったのだと考えられている。

思い出の名を子どもに付ける。
アンナの思いは林太郎と同じだったのかもしれない。



トリスタンとイゾルデをご存知?
ロミオとジュリエットの原作であるとも言われているお話。
禁断の愛のお話。

トリスタンは愛するイゾルデと離ればなれになるのだけど,
晩年の死に際に,船に乗ってイゾルデがやってくるのを
ずっとずっと待つの。

最後本当にイゾルデは,船に乗ってやってくるのだけど,
そのときにはトリスタンはもう死んでしまっている。
そんなドイツのオペラ。


森鴎外は晩年よく
このトリスタンとイゾルデの一部を歌っていたんだって。

船に乗って彼女は会いに来てくれないだろうか。

死ぬ間際,来るはずのないアンナが,
遠いドイツから船に乗って,来てくれることを
いつまでもいつまでも待っていたんだろうね。

きっとこれが舞姫の真相。
120年よく秘密を守ったものだよ。
好きだからこそ手放す愛情。
森鴎外もそうでしょ?

なかなか蛇足になるけど
ついでに。

歌姫ってドラマがあるらしい。

記憶喪失の男と,それを見つけた少女のお話。

10年ほどの時を経て,2人は愛し合い,
男がプロポーズを決意していたとき,
あることがきっかけで,記憶が戻ってしまう。

自分には妻子があり,両方は選べない。

男は本当は全てを覚えているのに,少女のことを思って,
少女と過ごした日々の記憶だけなくした風を装って,去ってしまう。


その後,ハッピーエンドは,2人のそれぞれの子と孫に託される。
ってお話なんだけど,
『歌姫』って題名が,すぐには納得できない。

歌に関係することは,ちょいちょいあるらしいけど,
納得できない。


ただこの物語が,舞姫本歌取りとしていると考えると,納得いく気がする。
舞姫の真相の本質がある。


何もかも,手に入れるだけが愛情じゃない。
そんなことを学んだ物語たち。
切ない物語に,人がきゅんとなるのは,
この愛情に触れるからなんじゃないかな。

日本とアメリカどこが違う?ノーベル賞受賞者中村修二氏言いたい放題

昨年ノーベル賞を受賞された中村修二さんの講演を元に書いた記事です。

 

f:id:lyacchyl:20150221163815j:plain

 (ノーベル賞公式Twitterアカウントより)

 

目次

1. 中村修二さんについて

2. 何を学ぶのが一番大事?洗脳だらけの日本の教育。

3. 研究者の理想の姿は?

4. ベンチャーの失敗,アメリカでは投資家の責任。日本では誰の責任?

5. アメリカと比べると疑問だらけ?日本の司法制度。

1. 中村修二さんについて

1954年,愛媛県生まれ。工学博士。
1979年,徳島大学院工学研究修士課程を修了後,日亜化学工業に入社。
窒化物系材料を使用した発光デバイスの研究開発に先駆的に取り組み,
1993年に青色,1995年に緑色の高輝度発光ダイオードの製品化に世界で初めて成功した。
また,1995年には紫色半導体レーザーを実現している。
1999年12月に日亜化学工業を退社し,2000年に米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校・材料物性工学部教授に就任。
仁科記念賞,本田賞,朝日賞,ベンジャミン・フランクリン・メダル工学賞など国内外の科学賞を多数受賞。
2014年ノーベル賞受賞。

2. 何を学ぶのが一番大事?洗脳だらけの日本の教育。

”教育という名前の,実際は洗脳です”

と中村さんが表現するのは,ご自身の体験からです。
高校に入った瞬間から学校の先生から,「おまえらは今が一番大事な時だ。だから大学受験の勉強ばかりしろ。大学受験の結果でおまえたちの人生はすべて決まるから,運動クラブなんか一切するな。有名大学に入ったら,後はバラ色の人生が待っている」と言われ続けたそうです。

大学に入って,好きなことができるかと思いきや,2年間の教養課程があって,また全科目を勉強しなければならない。中村さんは,大学に一,二週間通って,

”こんなくだらない大学にはもう行かない”

と言って,下宿に閉じこもって仙人生活に入りました。半年間,下宿に閉じこもって,好きな物理などをやっていたそうです。そのうち物理の究極は哲学だと考えるようになり,哲学書などを自然に読むようになったそう。高校まで大嫌いな文系の哲学を,です。

” 結局,試験のための勉強ではなくて,自分で自然に好きになるんですよね”

”当時はオイルショックによる不景気ということもあって,みんな片端から大手企業を受ける。これも洗脳ですよね。”

”私のクラスでも三洋電機に採用が,一人決まりました。そのすぐ後に,200人ぐらいいる大講義室の授業にちょっと遅刻して入ってきたら,みんなから「おめでとう」という大拍手が自然にわき起こったんです。「大手企業・エリートコースへの就職,おめでとう」という大拍手が自然にわき起こったんです。”

”みんなが,自然に,です。洗脳ですよ。今,見てくださいよ。三洋電機はつぶれかかって,パナソニックに買収されてしまいました。”

”みなさんみたいな若い人は,今,こうした大手企業に行ったらダメですよ。もう永遠のサラリーマンで悲惨ですから。”

理工学部のスーパーエリートコースと言われているのは,大手企業に入り,年収300万円くらいのヒラからスタートして,5年目でやっと主任,係長。10年目で年収500万円くらいの課長,20年かちょっとで年収1000万ちょっとぐらいの部長,というコースだと中村さんは説明します。

”こんな「エリートコース」を夢にしたらダメですよ(笑)。やめてくださいね。”

”日本の大学の最低なところは金儲けのことをいっさい教えないことです。一番大事なのは金儲けのことじゃないですか。大学だけでなく中学・高校と,アメリカの教育の一番は金儲けについてです。だって金を儲けて生活することは一番大事なことでしょう?大学受験じゃないんですよ。金儲け,つまりは生き方が分からないから,大学生は子ども扱いされるわけです。私もそうでした。大学受験しか教えていなくて,生きることの勉強を一切教えてくれないから。大学に入って何をしていいか分からないんですよ。”

3. 研究者の理想の姿は?

 中村さんは現在カリフォルニア大学で教授をされていますが,生徒たちは卒業後みんなベンチャー企業に入るか,あるいは自分でベンチャー企業を興すそうです。大手企業に就職して永遠のサラリーマンでいいというのは,自分のことをできが悪いと思っている生徒なんだとか。

”アメリカの大学で最も人気が高いのは工学部です。それは金が稼げるから。私はよく「金の亡者」と言われますけど,みなさん,なぜ仕事をするかというとお金を儲けて生活をするためでしょう?金をどんどん稼ぐのはいいことなんですと。この点についても日本人は洗脳されています。金に無頓着で,汚い白衣を着て,研究室に閉じこもって黙々と研究する---これが日本の理想の科学者像です。とんでもないですよ。これは完全に日本の洗脳です。アメリカでは理想の科学者とはがっぽり稼ぐ科学者です。みなさんだって,同じ仕事をするなら,たくさんお金をもらった方が嬉しいでしょう? ”

 理工学部はアメリカで一番人気があり,それはベンチャーで稼げるからだそうです。中村さんは学生にベンチャーまたは小さい会社に行くことを勧めます。それは中村さんご自身が,小さな会社で設備や資金が豊富とは言えない環境の中,研究・開発から製造,品質管理,営業,販売をし,そして会社に理解されず苦労しながらも特許を書き,管理し,費用もなんとか工面するという何でも自分でする経験が今に生きているからのようです。

”大手企業のいいところはと言えば,いろいろな設備があるところです。大学だと思って行けば最高の場所なんです。いろいろな設備に加えて,優秀な人材がいるでしょう?たとえば東芝なら東芝大学,パナソニックならパナソニック大学と思って,そこでいい技術を勉強して,4,5年で卒業する。そして自信があったら自分でベンチャーをやったり,ベンチャーに行ったりすればいいわけです。あるいはまだベンチャーに行く自信がなかったら,東芝大学を卒業して,さらにパナソニック大学に行く。そうやって何年か大学に行って,自信がついたら,ベンチャーに飛び込めばいい。それでも自信がない人はその大学で永遠のサラリーマンをやればいいと思います。

でも,大企業に永遠にいるのはダメですよ。会社はどんどんやめるべきだと私は思います。私の年代の人間は完全に洗脳されましたから,会社を途中でやめるなんてとんでもないことだと思っていましたが,そんなことはありません。A大学,次はB大学と技術を吸収して,どんどんやめて,自分でベンチャーをやればいいと思います。”

 

4. ベンチャーの失敗,アメリカでは投資家の責任。日本では誰の責任?

”日本にはアメリカのようなベンチャーキャピタリストがいないので,ベンチャーを始めるのは資金面で大変です,アメリカにはビル・ゲイツのような大金持ちの人がいて,彼らがベンチャーに投資するのですが,そのベンチャーが失敗したとしても何も対価を求めません。

日本にはベンチャーキャピタリストがいませんから,ベンチャーをやろうと思ったら銀行などに資金を借りるしかない。銀行から資金を借りる時には必ず自分の個人資産の担保がいります。だから失敗したら,全資産を取られて首つり自殺というストーリーになるわけです。

アメリカのベンチャーキャピタリストは,資金を投入したベンチャー会社が失敗しても,それは彼ら自身が失敗したということなので,ベンチャー会社に対しては何も求めない,その違いがあります。 ”

 お金儲けの方法を学びたい場合には,ベンチャービジネスをやることですが,このような理由でアメリカに行くのが一番手っ取り早いと中村さんはおっしゃっています。

そして,日本企業がグローバル競争に遅れていることも深刻な問題だと指摘されています。

シリコンの半導体,携帯電話,液晶,太陽電池,これらはすべて技術的に世界で最初に一番良いものを作ったのは日本ですが,マーケットは日本国内だけだったために,世界市場を他国の企業に占領されてしまいました。

”それはどうしてか。それは日本が島国で,日本人は英語ができないからです,英語というハードルがあるから。先ほど言われなかったのですが,みなさん,海外に出なければダメですよ。今,若い人たちはますます海外に出なくなっていますが,年単位で,最低4,5年は海外に出てください。旅行ではダメですよ。どこでもいいから,外から日本を見ると,今まで完全に洗脳されていたことに気づき,そこから覚醒するはずです。特にベンチャーをやりたい人は,ベンチャーのシステムが最もよくできているのがアメリカですから,やはりアメリカがいい。アメリカのシリコンバレーやMITなどに行ったらベンチャーだらけですから,自然にベンチャーのノウハウを学びますよ。そうすると英語もできるようになります。何年かしてから日本に帰ってきて,日本の企業のグローバル化に貢献してください。 ”

 

 

5. アメリカと比べると疑問だらけ?日本の司法制度。

 

”ハリウッドで一番多いのは裁判映画ですが,それは正義が悪をまかすシーンに観客が感動するからです。

日本では正義なんかどうでもいいんです。証拠がなくて,真実が分からないから,裁判長は正義が悪をまかすなんてことはできない。だから日本では裁判が始まった瞬間に判決が出ているんですよ。判決は「落としどころ判決」と「利益衡量」の2つです。原告と被告の言い分を足して2で割ったのが「落としどころ判決」。どちらを勝たせたらどれだけ多くの人が利益を得るかを考慮して判決を出すのが「利益衡量」。たとえば昔,公害裁判がありましたが,この裁判の被告は大企業と国です。国が勝ったら全国民が利益を得るでしょう?このため,国と大企業を勝たそうとするのが,「利益衡量」です。この両者の判決には,アメリカの裁判での判決で一番,重要視される「正義」の概念が全く含まれていません。データがないのだから,弁護士も仕事がありませんね。”

 このような日米の違いを強く主張されているのは,中村さんが日米両国で同時期に裁判を経験されたからです。

中村さんは,アメリカに渡った後,元の会社から企業秘密の漏洩でアメリカで訴えられて,その1年後に相当対価で,日本で相手を訴えたのです。アメリカでは被告,日本では原告です。

証拠開示義務については,アメリカではすべての証拠を出さなければならず,事務所にある本から何から全部コピーして持って行かれ,銀行の預金通帳,クレジットカードはもちろん,コンピュータにしてもデスクトップからノートパソコンまで全部,Eメールもすべてチェックされたそうです。

一方日本では,証拠開示義務は一切なく,開発に当たっての元部下や実験ノートなどの提出を希望しても出さなくてもいいと言われたそうです。

アメリカでは,証拠をたくさん出したら,次は証人尋問です。証人に拒否権はなく,中村さんは証人尋問を述べ約1週間,朝の9時から5時まで徹底的にされたそうです。それも相手の弁護士事務所でビデオを撮られながら,質問に対してすべて真実を言わなければならなかったのです。

日本では,この証人尋問もないに等しく,形式的に一人だけ,2時間ぐらい行われたそうです。

アメリカでは大講義室ぐらいの量の証拠を出して,そこからいい証拠をかき集めて,いいストーリーをつくって裁判をするのに,証拠なしで日本の弁護士さんたちは,毎日準備書面というものを書いて裁判所に出していることに,中村さんは疑問を持たれたようです。

アメリカでは原告と被告の弁護士と裁判長がその場で激論を交わし,毎日朝の9時から5時まで,1週間続けて法廷で裁判をするのに,日本では最初の法廷は5分か10分で終わってしまいました。2回目以降もそれは続き,1,2年間これを繰り返して,ある日判決文を読むのです。

”オーマイガッドですよ。

しかも404号特許裁判ですから,技術の戦いです。でも,まともに読んで理解しているかどうかも分からないし,まず読んでいるかどうかもクエスチョンマークです。それで判決文を読んだら,テレビや新聞などのマスメディアが一般に広めて,それをみなさん,遵守する。日本の裁判は無茶苦茶でしょう?”

”こういう話をロスアンゼルスの日本人会で話したところ,質疑応答で45,6歳のにとが手を挙げて,「中村先生のおっしゃるとおりです。私は日本で弁護士をやっていました。でも日本で弁護士をやっていると,法廷でお互いが嘘を言いたい放題なので,あきれて,私はアメリカに来ました」とおっしゃっていました。いい例がホリエモンです。彼はインサイダー取引で100億円も200億円もつくったのに,1年間ぐらい刑務所に入って,罰金が数億円で終わります,アメリカでもエンロン事件という同じようなインサイダー取引の事件がありました。こちらは,会長,社長,副社長の3人に禁固刑200年,罰金何千億円という判決が下りました。もう一生出られません。これも懲罰的判決なのです。日本はやったもの勝ちですが,アメリカはそういうことはありません。どんな人,どんな権力者でも許されないのです。”

”司法制度は最も大事であり,日本でベンチャーが育たない理由のひとつは,司法制度が腐っていることがあります。ベンチャーの人たちは「大企業保護だから」とよく言いますが,確かにすべて「利益衡量」です。だからベンチャーが育たない。ですから日本の司法も変えないとダメですね。司法制度がしっかりしないと,個人が権力者に立ち向かえないんです。アメリカではベンチャーを始めたら必ず最初に雇うのが弁護士です。契約書などさまざまな法的なことで大企業と闘わなければなりませんから,弁護士は絶対に必要なのです。 ”

中村さんが知っている升永俊英弁護士は日本で一番稼いだ弁護士で,アメリカに10年ほど滞在し,アメリカで弁護士資格も取った方。中村さんは,弁護士の方もシリコンバレーに行った方がいいんじゃないかなとおっしゃっています。ストックオプションのシステムや契約書の種類などいろいろ学ぶことができるからです。

”特に若い人は,大企業に勉強しに行くのならいいのですが,永遠のサラリーマンはやめてくださいね。世界を変えるのはベンチャー。みなさん,是非ベンチャーをめざしてください。”

 

引用元
2011年11月12日
慶応義塾大学 人間教育講座

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/KO50001001-20110000-0179.pdf?file_id=70610

ブラックホールはひもで定義される。22世紀の数学に挑む天才の論文

エドワード・ウィッテンさんという超天才を紹介します。


目次

1. エドワード・ウィッテンについて

2. nature論文:ブラックホールは,ひもで定義できる

f:id:lyacchyl:20150212024520p:plain



1. エドワード・ウィッテンについて

エドワード・ウィッテン

・お父さんが物理学者で,いわゆる二世の学者
・元々の専攻は政治ジャーナリズムで,実際に一時期,政治記者をやっていた
・その後,物理学の大学院に戻り,物理の片手間でやっていた数学でフィールズ賞受賞
フィールズ賞は数学のノーベル賞と呼ばれ,世界最高の数学賞。40歳以下という年齢制限もある。)
超ひも理論(超弦理論)において,M論を提唱した理論物理学者

・M論によると世界は11次元である
・名言に
「弦理論の数学は何故か22世紀の数学が20世紀に間違って出てきたもの。
 私は22世紀の数学で頑張るが、
 君たちは21世紀の数学である場の理論をやりなさい」がある。
・現在はプリンストン高等研究所教授。
・話しているときのアヒル口が素敵

f:id:lyacchyl:20150212024842p:plain
(カブリ数物連携宇宙研究機構Facebookページより)

f:id:lyacchyl:20150212025359p:plain
(ウィッテンの"More On Superstring Perturbation Theory"
という論文の説明に用いられている図)




2. nature論文:ブラックホールは,ひもで定義できる

以下の文章は,
nature,1996, Vol 383, No 6597, pp201-282に掲載されている
"The holes are defined by the string"という題名の
ウィッテンさんの論文です。

ブラックホールは,ひもで定義される。』

一般相対性理論は、とうとう、量子力学の軍門に降ることになるのか ? 超ひもの集合をつかってブラックホールの特性を書き表す計算は、物理学の最も頭の痛い謎の一つの解明に向けて動き出した。

まさにこの問題こそ、20年前にスティーヴン・ホーキングがとりあげたものなのだ。 ホーキングは、量子力学的には、孤立したブラックホールは完全に黒くはなく、プランク定数hに比例する強さの放射を出すことを証明したのである(ということは、量子力学がなければ、 放射率はゼロになる)。

最近になって、 新しい技法がブラックホールに適用され、古くからのミステリーに、少なくとも一条の光明を投げかけた。6月に出た論文で,アンドリュー・ストロミンジャーとカムラン · ヴァファは、ある種のブラックホールの量子状態の数を数えることに成功した...(一部略)...ひも理論を用いて。

[訳は,竹内薫さんによるものです]

f:id:lyacchyl:20150212030133p:plain
[Can scientists’ “theory of everything” really explain all the
weirdness the universe displays? /// BY EDWARD WITTENより]

以下原文です
The holes are defined by the string
EdwardWitten

Must general relativity finally bow to quantum mechanics? Calculations that describe black-hole properties using collections of superstrings have gone some way towards resolving one of the most vexing puzzles in physics.

This particular question was addressed 20 years ago by Stephen Hawking, w ho showed that, quantum mechanically, an isolated black hole is not completely black, but emits radiation at a rate which is proportional to Planck's constant h(and so the rate is zero in the absence of quantum mechanics).

Lately, the new techniques have been applied to black holes, shedding at least a bit of light on the old mysteries. In a paper published in June, Andrew Strominger and Cumrun Vafa succeeded in counting the number of quantum states of certain blackholes ...(一部省略)... using string theory.

 

Googleを作った人物の挑戦:世界を桃源郷に(ラリー・ペイジのインタビュー書き起こし)

この記事は,本ブログの記事から英語原文を除き読みやすくしたものです。
英語も同時に見たい方は以下の記事を御覧ください。

Googleを作った人物の挑戦:世界を桃源郷に---ラリー・ペイジのインタビュー記事翻訳 - ぐうたら日記


ここに紹介するのは『FT interview with Google co-founder and CEO Larry Page』という記事です。かのGoogleを作ったラリペさんのインタビュー記事です。

2014年10月の終わりに出た記事で,「20年後、あなたが望もうが、望むまいが現在の仕事のほとんどが機械によって代行される。」と訳されて紹介されていた記事です。

悲観的に受け取られた方もいるのではないかと思うのですが,原文を読むと,ラリペさんはなんて素敵で優しい人なんだろうと私は思いました。

そこで,今回原文全部をほぼ直訳しました。拙い訳ですので,間違いなどありましたら,ご指摘いただけると嬉しいです。

 

 

 目次

 

  1. 記事の引用元
  2. Googleを作ったラリー・ペイジについて
  3. 記事要約
  4. 記事本文

 

 

 

1. 記事の引用元

 

この記事は,以下の『FT interview with Google co-founder and CEO Larry Page』を直訳したものです。
 
 

f:id:lyacchyl:20150208221116p:plain

 
 

2. Googleを作ったラリー・ペイジについて

 

Google検索は,ページランクというアルゴリズムで成り立っているわけですが,これを作ったのがラリー・ペイジことラリペさんです。ペイジとページをかけてるんですね。おしゃれです。

スマホAndroidをいまの形にしたのもラリペさんです。

 今回の記事中にスティーブ・ジョブズ氏とのエピソードがありますが,ラリペさんが,まだ投資家の信用も得てない若造な26歳のとき,投資家の勧めで,スティーブ・ジョブズ氏,Amazonジェフ・ベゾス氏や,インテルのアンディー・グローヴ氏とCEOの仕事について話してみたことがありました。

そしてすべてのミーティングを終え,ラリペさんが言った言葉は「スティーブ・ジョブズなら雇ってもいい」だったそうです。

 

 

 

 

3. 記事要約

  • Googleが行っていることは,長期的な忍耐強い投資を提供することである。
  • Googleの大志は,検索宣伝ビジネスから得たお金を世界をよりよくするために投資することだ。
  • 人々の仕事がテクノロジーに取って変わられても,混乱は価格の下落によりすぐ収まる。
  • どんな人が自分の職を失って後悔するのか?一度仕事がテクノロジーによって時代遅れになると,仕事に焦がれて時間を無駄にするのは意味がない。
  • ラリー・ペイジは,大志を抱く理想主義者であるが,自分の抱える課題にきちんと向き合っている。

 

 

 

4. 記事本文

目次

(a) ラリー・ペイジが見ている未来。
(b)グーグルの目標は,社会的なゴール。
(c) 620億ドルを手に大志を抱きつつ,大きな責任を感じて慎重なペイジ。
(b) グーグルの目標は,社会的なゴール。
(e) ブレークスルーは,大志を抱き,それに従事することで起こせる。
(f)  過少投資が問題だ。誰かが投資しなければならない。
(g)  エンジニア出身のペイジは,社内会議で技術的課題を深く議論するより好きなことはない。
(h)  正しい集中と応用により,改善・効率化は必ず実現できる。
(i)  世界を極楽にする方策として,数百万の仕事が時代遅れとなり,デフレスパイラルが起きる。
(j)  住宅価格が崩壊するのも推測済み。
(k)  テクノロジーへの不安をひっくり反す必要がある。
(l)  スティーブ・ジョブズとの議論。
(m)  グーグルは重要なこと全てを奪いたいわけじゃない。
(n) エックスを超えて,グーグルの翼下で大きな新しいビジネスの立ち上げ。
(o)  グーグルが理想とする姿は,企業では前例がないが,人物では唯一ウォーレン・バフェット


【Richard Watersによるラリーページのインタビュー記事】


(a) ラリー・ペイジが見ている未来。

もし,ロボットが働いてくれるおかげで,90%の人が仕事をせずにくつろげるようになったら,世界は,より幸福な場所になれないのだろうか?
支払いのたった5%しかマイホームにかからないようにすればいいのではないか?
いつの日か,あなたと,それから子どもたちが,核融合で得られる安い無限の電力と大幅に引き延ばされた寿命を享受してはいけない理由があるのか?
ラリー・ペイジは,そういったことで頭がいっぱいである。

41歳,グーグルの共同創立者かつ重役は,非常に広い視野で考える。
最近行われた再組織化は,グーグルの現在のビジネスにかかるペイジの責任を補佐に移し,ペイジが好きなだけもっと野心的な衝動に熱中するだけの余裕を残した。
メッセージ:世界で最もパワフルなインターネット会社は,検索エンジンの独占から得られるお金と引き換えに次世代技術の金の卵のシェアを手に入れる用意ができている。
 
(b)グーグルの目標は,社会的なゴール。

いまから100年先に広がっている可能性に目を向けて,ペイジは言う:
「我々はおそらく,人類として負っている多くの課題を解決するでしょう。」
株式市場上場に伴った理想主義のスタートから10年になり,グーグルの「悪になるな」「世界をよりよい場所に」といった,あらゆるグーグルの言葉がいくぶんか古くさく聞こえるようになった。
  
グーグルの力と富は,恨みを抱かせ,反感をかってきた。いかにインターネット検索においてその独占力を振るうかを調査中のヨーロッパでは特にそうだ。
しかしながら,ペイジは,共同創立者のセルゲイ·ブリンと一緒に,一見もっと素朴に見える時代を築くという特大の大志と利他主義から少しもひるまない。
「社会的なゴールが,私たちの第一のゴールなのです。」ペイジは言う。
「私たちは,いつもグーグルを通してそう言おうとしてきました。私たちは自分たちが望むようには成功していないと自分では思っています。」

グーグルの有名な将来にわたる社是:
「世界の情報を体系化し,情報を一般にアクセス可能で役立つものにする。」でさえ,ペイジが今抱いているものに見合う程大きくない。

目的:バイオテクノロジーからロボット工学まで,未来の景気づく産業において,立場を確保するためにグーグルの検索宣伝ビジネスから噴き出すお金を使うこと。
これが新たな社是をグーグルが必要としていることを意味するか否かを尋ねられると,ペイジは言う。「おそらく,私たちは新しい社是を必要としていると私は思っています。」
グーグルがどうなるべきかについて:「私たちは,さらにうまくいかせようとしています。」

(c) 620億ドルを手に大志を抱きつつ,大きな責任を感じて慎重なペイジ。

最近,広範囲のインタビューのために,シリコンバレーにあるグーグル本社で我々に会ったとき,
ほとんどの社長が持つ最も信頼のおける自信とは実に正反対な,特徴的で,ためらいがちな自分のスタイルをペイジは見せた。

ますます脚光を浴びて,5万5千人の社員が働く会社を経営する上で増えゆく責任を感じるのは疑いようがなく,また,ペイジはかつてよりずっと注意深く言葉を選ぶようになった。

しかしながら,大志とペイジのアイディアの雄大さに明白な変化はない。
それは,たとえ2人の若い子供たちの父親として,教育のように長期的な課題をより意識するようになってもだ,とペイジは言う。
 
 歴史上,技術変化の奔流が,徹底的な社会またはビジネスの崩壊をもたらす程脅迫的であるとき,
ペイジは自分が,世界で最もパワフルなテクノロジーカンパニーの一つの舵取りだと気付く。
  
グーグルのゴールは,他より大きい。
いまなお新しいベンチャーにお金を注ぎ込んでもキャッシュは蓄積され続けている。
今や620億ドルを越える。
「私たちは今,ちょっとばかり未知の領域にいます,」ペイジは言う。
「私たちは,見出そうとしています。どのようにこれら全ての資産を使うか…そしてどのように世界にもっとずっと良い影響をもたらすかを。」
グーグルの投資家たちが,グーグルの長期的な将来への大規模な賭けの大きさに最近慎重になっているが,これはほんの始まりに過ぎない。

ペイジからすれば,それは全て大志にいきつく。世界が単純に十分に大きな供給を持っていない便利なものという大志だ。
 
(d) あなたも10人でインターネット会社を立ち上げて,何十億人ものユーザーを抱えられる。
 
定期的に訪れるブームの1つの真っただ中にあって,シリコンバレーは,いまだテクノロジービジネスの中心地ではあるが,目先のことしか見なくなっているとペイジは言う。
根本的には「壊れた」わけではないと主張しながらも,シリコンバレーは過熱しているとペイジは言う。それがどれ程重要かは,また別の論点として。
間違いなく多くの資本と興奮させるものが存在して,これらは周期的に起きる。」とペイジは言う。
「しかし今から100年間,あなたはおそらくそのことを気にかけないでしょう。」 
テクノロジー産業へ注ぎ込まれるお金の多くは,最新のインターネットブームの消費者から楽に得られる儲けに引き寄せられている。
 「あなたも10人でインターネット会社を立ち上げて,何十億人ものユーザーを抱えられるのです。」
 そんなに資本はかからないし,多くのお金を稼ぐことができる。本当に,本当に多額の。だから誰もがこの種のことに集中するのは当然なんです。

(e) ブレークスルーは,大志を抱き,それに従事することで起こせる

地球上のほとんどの人の生活に物質的に違いをもたらす潜在能力を持つテクノロジーの真のブレークスルーを,たった50人の投資家が追いかけるとペイジは見積もっている。

これらの大きなアイディアを何か抑えるものがあるとすればそれは,資金不足でもなければ,克服できない技術的なハードルの壁でさえもない。
 ペイジが思い描いてる類のブレークスルーが達成されようとするとき,
「それが推進されるのは,いかなる基本的な技術進歩によってでもありません。単に人々がそれに従事し大志を抱いたから,ブレークスルーは推進されるのです。」とペイジは言う。

(f)  過少投資が問題だ。誰かが投資しなければならない。
  
課題:「私たちはおそらく世界の中で,1つの世界として過少投資されている。」
十分な範囲でこれらの課題を考えている機関の数は十分ではない。特に政府は。
  
政府よりはむしろ民間企業が自分の地位を利用してまで,世界のもっとも長期に渡る,大望のある科学プロジェクトを支援すべきなのにしていないかどうかという質問に対して,ペイジは気の利いた答えを言う:「うーん,誰かがそれをしなければいけません。」 
これは,ペイジのエンジニア心が現れたところだ。

(g)  エンジニア出身のペイジは,社内会議で技術的課題を深く議論するより好きなことはない。
コンピュータサイエンスの教授である父を持つペイジは,
彼を知る人々によると,社内会議で技術的課題を深く議論するより好きなことはない。
  
ペイジは説明する。例えば,グーグルのデータセンターがどのように運営されているかということを,どのように掘り下げていくかというと,どれだけ電力にお金を払っているかという課題は,電力供給網のデザインについての質問になる。

(h)  正しい集中と応用により,改善・効率化は必ず実現できる。

正しい集中と応用を伴えば,より改善し,より効率よく運営できないものなんて存在しないとペイジはほのめかす。
最近の核融合に従事する新規事業の訪問は,低コストエネルギーのブレークスルーの可能性からペイジを興奮させた。
また他の新規事業は,映像を見せられている被験者の心を「読む」ことができる技術によってペイジを驚かせた。

「5000万ドルを持つ本当に賢いグループは,このような問題に多くの進展を生めます。しかし,そのようなことは十分に起こってはいないのです。」とペイジは言う。

グーグル所有の大きな賭け金の一部は,「シマ」とペイジが表現する地域にある。その場所は,技術的な解決に開けているように見えるけれども,なんらかの理由で注目を集めていないところである。
例として,ペイジは自動運転車と高齢者を悩ませる病気を挙げた。
後者は,スタンフォード大学の研究室でペイジの奥さんが取り組んでいる分野だ。
「それは地位の高いものではなかった」ペイジは言う。
  
Calicoと呼ばれる新しいバイオテクノロジーの機関を通して,Googleは今,何億ドルもの自己資金を,この高齢者を悩ませる病気に取り組むエリアに設備投資しようとしている。
「私たちには資金があるので,やるぞと一度言えば,この人たちならできると人々に信じてもらえます。その事実にはとても恩恵を受けています。」ペイジは言う。
 「グーグルはそのように手助けします:そのような資金調達メカニズムは多くは存在しません。」

(i) 世界を極楽にする方策として,数百万の仕事が時代遅れとなり,デフレスパイラルが起きる。
 
しかし,初期と比べて技術的な変化の高まりが不安をかき立て始めた。その初期には,性急な技術的イニシアティブが出現するたびに,親が子のフィンガーペインティングを褒め称えるような受け入れをする熱狂的な層によって歓迎されていたものだった。
「人々は混乱を見ますが,本当に良い面に目を向けません,」ペイジは言う。
「人々はそれを人生を変えるようなものとして見ません…問題は人々がそれに参加したがらないことだと私は思います。」
テクノロジーのこととなると,いつも楽観主義者であれば,全ては変わるとペイジは言います。
例えば,急速な人工知能の発展により,コンピュータとロボットがほとんどの仕事に順応するだろう。
仕事をやめる機会を与えられたら,10人中9人は「今日自分がやっていることを,やりたいとは思わないでしょう。」
どんな人が自分の職を失って後悔するのか?一度仕事がテクノロジーによって時代遅れになると,仕事に焦がれて時間を無駄にするのは意味がない。
「全ての人は奴隷のように働くべきで,だから人は何かを非効率に行い,だから仕事を続けるという考えは,全く私にとって意味を成しません。それは正解になりえません。」
 
テクノロジーがたくさんの日用品や毎日のサービスの価格にもたらすであろう影響の中に,ペイジは異なる恩恵を見ています。
巨大なデフレが来る:「たとえもし,人々の仕事に混乱が生じても,それは私たちが必要とするものの価格の低下によって短期間に引き起こされ,私が思うに本当に重要なのに,話し合われていないのです。」
新しいテクノロジーは,10%ではなく,10倍以上効率を上げる,とペイジは言う。
  
ものの値段が下がっていくのを考えてください:「あなたが快適な生活を過ごすために欲しいものは,ずっと,ずっと,ずっと安く手に入れられると私は考えています。」

(j)  住宅価格が崩壊するのも推測済み。

崩壊する住宅価格は,この方程式のもう一つの部分です。テクノロジーもさることながら,ペイジはこの方程式を,とある方針の変化にも当てはめるのである。その方針というのは,建設のためにより簡単に利用できる土地を作るために必要とされる方針である。

1000万ドルどころか,パロ・アルト,シリコンバレーの中心にある平均的な家に,5万ドルも払わなければならないいかなる理由も見いだせない,とペイジは言う。
多くの人にとって,このような個人の経済の大変動の考えは,現実性のないものに見えるだろう。
非常に動揺させるとまでは言わないが。
 数百万の仕事が時代遅れとなり,個人の家の価値は崩壊し,日用品の価格はデフレスパイラルとなるという見通しは,極楽への方策のようにはとても聞こえない。

(k)  テクノロジーへの不安をひっくり反す必要がある。
  
しかしながら,資本主義体制において,テクノロジーを介して非効率を消すことは,論理的な結論まで追求できるとペイジは示唆する。
「これらのことが起きなければ良いと願うことはできません。これらのことは起きるのです。」ペイジは言う。
「経済において,かなりの量のとても素晴らしい能力を持つでしょう。私たちが,もっともっと色々なことができるコンピュータを持つ頃には,仕事に対する私たちの考え方は変わっていっているでしょう。」
 その他に方法はないのです。退けることはできません。
 
. . .
  
方針を議論することになれば,多くのテクノロジーのように,技術的な疑問を抱かせるある種の困難を受け入れる余地がないという課題の取り扱いにくさに,ペイジはすぐに失望を表す。
 「これらのことにとてつもなく大きな不安があるし,ひっくり返さなきゃいけないと私は思います。」とペイジは言う。それをどのようにすべきか具体的なアイディアはないけれども。
 「社会として,違うように何かするのは非常に難しく,そして,私はそれを良いとは思っていません。」
 「人々が考えていそうにない最も基本的な問いのいくつかは,私たちがどのように人々を組織し,人々をどうやって動機付けるかという問いである。」ペイジは言う。
 「それは本当に興味深い問題で,私たちはどうやって民主主義を組織するのでしょう?アメリカでの満足感を調べてみると,良くなってはいなくて,悪くなっています。これはとても心配なことです。」
  
起業家精神とテクノロジーへのヨーロッパの貧弱な支援だとペイジが考えているものの資料の中に,ペイジは追加した:「ヨーロッパにおける問題の多くはこれと似たようなものだと思う。」

(l)  スティーブ・ジョブズとの議論
  
また別の障壁が身近に横たわっている。テクノロジー産業の究極的目標に到達するには,たぶんグーグルは既に1つの会社で行うのが可能なことの限界にきてしまっている。
ペイジは,3年前に亡くなったアップルの社長であるスティーブ・ジョブズと頻繁に行っていたという議論について話した:
 「スティーブは,いつも私に,『君はあまりにもたくさんのことを詰め込んでやりすぎだよ』って言ってきたものさ。私は言い返していたんだ『君の方こそ,十分に詰め込んでやらなすぎだよ。』ってね。」
 ペイジがジョブズにしていた議論:「これら全ての人を持っているだけ,数十億ドルを持っているだけじゃ不満なのです,人々の生活をより良くするために投資すぺきなんです。私たちが単に同じことをして,私たちが前と同じようにやって,何も新しいことをしないならば,それは私には罪のように思えるのです。」
  
しかし,理想主義によって,ペイジは,自身の持つ大志の問題から目を背けているわけではない。
「スティーブが言っていたことは正しかった--『ラリー,君はとても多くのことを扱うことしかできないんだ。』」
 
(m)  グーグルは重要なこと全てを奪いたいわけじゃない
 
もしペイジ--そしてグーグルが勝利を収めるならば,彼らは大きな会社を過去に押し戻すという逆境に打ち勝たなければならないだろう。特に1つのテクノロジーの世代からの数少ないリーダーが次にそれを大きくするテクノロジー産業においては。
 
「大企業というのは全て(時価総額が)同じ大きさの桁内にあります。」と自分の会社が既に限界を越えているという明白な感覚を持っているペイジは言う。
  
「あなた方は,グーグルはこれらの重要なこと全てを奪うつもりだと言うかもしれませんが,しかしそれを行っている会社の例は存在しないのです。」
  
どうやって見えない天井を突き破るかについてのペイジの考えは,最近進化してきたようだ。
 
(n) エックスを超えて,グーグルの翼下で大きな新しいビジネスの立ち上げ。

グーグルエックスは,ブリンの発案の内部研究所であり,グーグルグラスや自動運転車といったプロジェクトを伴う大きな新しいアイディアに戻ろうという初の試みを示している。
  
ブリンがグーグルのメインビジネスから退いたにも関わらず,ペイジは彼らを身近な敵と表現する。
  
「私たちは,たくさんの時間を共にしてきました…こんな経験を共有する人というのはほんのわずかです。」とペイジは言う。最も大きな賭けに到達しようと途切れなくブリンがかき立てることについて,ペイジは付け足す:「重要で,もっとエキストリームな側にブリンは常にいるんです。」
  
いまや,エックスを超えて,ペイジは準独立のリーダーたちと一緒に独立した事業分野を設定し,グーグルの翼下で大きな新しいビジネスの立ち上げを委ねることをペイジは試している。
 
Calicoに加えて,グーグルは最近,インターネットアクセスとエネルギーにおける投資からなる新しい分野だけでなく,「スマートホーム」担当のNestをこれらに含めることを明らかにした。

(o)  グーグルが理想とする姿は,企業では前例がないが,人物では唯一ウォーレン・バフェット
 
グーグルはまた,シリコンバレーベンチャーへの最も大きな投資家として過去2年間で急速に存在感を出してきている。グーグルの理想像のモデルとなる企業は存在しない。とペイジは言う。
 
しかしもしこの先に待ち構える課題に必要とペイジが考える資質の多くを表現できる1人の人が存在するとするならば,それはかの有名な投資家であるウォーレン・バフェットである。 
かつて思考力によって問題に答えようとする脳移植を語った理想主義者的な若い技術者たちとは全く異なってペイジは言う:「1つ私たちが行っていることは,長期的な忍耐強い投資を提供することなんです。」 
ペイジは,まだ長い目で見られる年齢です。
しかしながら,わずかな限界を示す大志を携えて,忍耐は別問題である。
 

現代に通じるインドの母の教え プロローグ

本紹介

 

            f:id:lyacchyl:20150209234503p:plain

『シャムチ アーイー ーインドの母と子の物語ー』という本の内容を少しずつ紹介していきたいと思います。著者はサネ・グルジー(1899-1950)インドの教育者、独立家として活躍された方です。

この本の内容は、少年シャムが母親とのエピソードを、毎晩友人に語るという形式になっており、愛情と知恵と力を持ち合わせた母親の言葉にハッとさせられます。

 

例えば、次のような母親の言葉と、それに対するシャムの反応があります。

「『神さまの仕事をする時、恥ずかしがってはいけない。悪いことをする時、恥なさい』神さまの仕事、国の仕事、母なるインドの仕事をするのをぼくたちは恥ずかしがっている。しかし、悪い本を読んだり、悪い映画を見たり、タバコを吸ったり、スーパーリー(食後に食べる嗜好品)を食べたり、ぜいたくをしたりすることを恥じない。正しい行い、良い仕事をするのを恥じるようになってしまった。そして悪いことに誇りを感じ、それを文化と勘違いしている。これは全くひどい状態だ。」(第一夜より)

 

 

今日紹介するのは、プロローグ。シャムが母親の話をすることになったいきさつが語られます。

 

 

 

プロローグ

 

 

多くの場合、人の偉大さは、その両親によります。その将来の人生の良し悪しは、その両親によります。その良し悪しの基礎は幼年時代に作られていきます。ゆりかごの中にいる時や、母親のそばで遊んでいる時に、将来の人生に育つ種がまかれます。

 

偉大という意味は有名ということではありません。ヒマラヤの谷や野原の中に非常に大きくて天にもとどきそうな木があっても、その名を知る人はありません。林の中のあちこちに、たいへん美しい、香りのよい花が咲いていても、その花がどこにあるのかだれも知りません。海の中にまんまるい輝く真珠があっても、人にはわかりません。地中深く星のように光るダイヤモンドがあっても、 人はそれを見ることはできません。無限の空の中に無数の星がありますが、大きな望遠鏡を使ってもそのすべての星を見ることはできません。
偉大という意味は人に知られているということではありません。「私は正しくなっている。私は少しずつ良くなっている」と気がついている人は偉大になっているのです。人格の中に偉大になっていく傾向を作り出すのは両親です。これは、子供が両親からもらう神聖な贈り物です。両親は気づいているにしろいないにしろ、子供を小さくも大きくもするのです。

 

子供が生まれる前に、その子供の教育は始まっています。母親のおなかの中に生命が宿る前に、すでにその子供の教育の準備が始まっているのです。子供が出来る前に、生活の中で両親はものを考え、感じ、そして仕事をするでしょう。そのすべてから赤ん坊の教育のもとは用意されているのです。
しかし、世界の中で両親だけが教えるのではありません。まわりのすべての人々、生物、無生物も教えます。けれども、このまわりのものから、何を学ぶべきか、どのように学ぶべきかを教えるのは両親なのです。子供の教育にいちばん大きな役割を占めるのが両親です。
そしてその中でも母親の役割が大きいのです。母親のおなかの中で子供は育ちます。母親とー体だった生命、まるで彼女のー部のようだった生命が生まれ出ます。外に出てからも、少なくとも幼年時代のほとんどを母親のそばで過ごします。母親のそばで笑い、泣き、食べ、飲み、遊び、そして眠ります。ですから本当に教育をしていくのは母親なのです。

 

母親は体を与え、心も与えます。生命を与えるのも母親ですし、知恵を与えるのも母親です。幼児期に与えられ、身についたものは決して変わらないものです。幼年期の子供の心は真っ白です。
何日ものあいだ、食べるものがなくておなかをすかした人が、手に入ればどんなものでも、うまかろうとまずかろうと、食べようと必死になるように、子供の真っ白な心はまわりにあるすべてのものを選ぶこともせず、すばやく取り入れてしまいます。幼年期の心は何でも取り入れます。土のように、また、蝦(ろう)のように与えられた形を取るのです。

 

母親が油気の多いものを食べると乳飲み児は気分が悪くなります。
母親がさとうきびジュースやマンゴージュースを飲むと、乳飲み児の体も冷えてしまいます。それと同じように、母親が子供の前でかんしゃくを起こしたり、けんかをしたりすると、子供の心も病気になります。
それなのに、このことをお母さんたちは忘れてしまいます。母親が子供のそばで話したり、歩いたり、笑ったりする、そのすべての行為は、子供の心や知恵や感情の乳(栄養)となります。子供にお乳を飲ませる時に、母親の目が怒りや嫉妬で赤くなっていたら、子供の心も気むずかしくなります。

 

このように両親、親戚、まわりの生物、無生物が子供を教育するのです。子供のそばではたいへん注意深くふるまわねばなりません。雰囲気を良いものに保たなければなりません。太陽や月が知っているかいないかにかかわらず、その光のおかげで蓮の花が咲くのは確かなことです。両親やその他の人々が知っているかいないかにかかわらず、その行いによって子供の生命のつぼみが花開くのは確かなことです。
太陽や月の光のように、人々の行い、両親のふるまいが、正しく、明るいならば、子供の心も蓮の花のようにみずみずしてく、香り高く、美しく、清らかに咲くでしよう。そうでなければ、虫に食われ、病気で青白く、色あせ、汚れたものとなるでしょう。

 

子供の人生を悪くすることほど大きな罪はありません。きれいな泉の水を汚くすることほど罪深いことはありません。子供のそばで暮らす人たちは、このことをいつも頭に入れておかねばなりません。
ヴァシシュタという名の聖人は『ヴェーダ』(バラモン教の根本聖典)の中で、ヴァルナ神
(天空を司る神々の王、後には水の神となる)に言っています。

「ヴァルナ神よ、私が何か悪いことをしたならば、それについては、親たちに責任を追及してください」
アスティ ジャーヤーン カニーヤス ウパーレー」(「幼い者のそばに年上の者がいて導きます」とインドの古い言葉で述べられています)

年上の人は自分の責任を理解して行動しなければなりません。両親、隣人、先生はみな、子供の成長のことをいつも考えて行動しなければなりません。

シャムには幸運なことに偉い母親がいました。毎日彼は、自分の母親に心の中で感謝していました。ときどき泣きながら彼女のためにおまいりをしました。

アーシュラム(集団で宗教生活を行う道場)に住んでいる友だちは、彼に生活のいろいろな出来事を話すよう何度も頼みました。でもシャムは話しません。

アーシュラムの他の友だちはみんな、生活上のいろいろな良い経験も悪い経験もお互いに話していました。友だちの話を聞いていると、ときどきシャムの目は急に涙でいっぱいになります。自分自身の同じような思い出がよみがえるからです。

「シャム、君はみんなの話を聞いているだけで、どうして自分のことは話さないの」
と彼の友だちは、何度も言いました。

ある日、友の再三の誘いの言葉に、シャムはのどをつまらせて言いました。

「ぼく自身のむかしのことを思い出すと、とても悲しくなるよ。むかしの自分の良いことと一緒に、悪いことも思い出すから。正しいこととー緒に間違ったことも思い出すから。
ぼくは自分の欠点のひとつひとつを土の中に葬った。その亡霊がまた起きて来て、ぼくの首をしめないようにするために、ぼくは必死に努力しているんだ。
生活が正しく清らかであることがぼくの願いであり、望みであり、夢なんだ。
なぜ、むかしのことをぼくに思い出させるんだい。ぼくの人生はいつになったら星のように清らかになるだろう。これがぼくの憶病な願いなんだ」

「それじゃ、ぼくたちに君の良いお話だけを聞かせてよ。良い事について考えることによって人は成長すると、君はいつも言ってるでしょ」
と小さなゴウィンダーが言いました。


「でも、良い事だけを思い出して話していたら、自分は正しいんだという慢心の気持ちが出てくるだろう」
とビカーが言いました。

 

シャムは真剣になって言いました。
「人は自分が悪くなったことについて話す時、恥ずかしくなるのと同じように、自分はこんなに良くなったとか、良くなっているとかいう時にも恥ずかしくなるものだ。たったひと言でも自慢する言葉がぼくの口から出ないよう祈っているんだ」

ナーラーヤソは、少し笑って言いました。
「自分はいばっていないということを、いつかは自慢したくなるだろう。”ぼくは傲慢なことを言わない”そういう時にこそ、傲慢さが出てくるだろう」

シャムは言いました。
「この世界ではどんなに注意してもしすぎることはないよ。あちこちに心をひく誘惑がある。悪くなる落とし穴がある。できるだけ注意して努力し、正直に頑張り、自分をだましてはいけない。慢心の姿はとても小さい。だからいつも気をつけなければならないんだ」

シャムの仲の良い友だちラームが言いました。
「ぼくたちはお互い知らない者同士だろうか。君とぼくらは、まだ心が通じあっていないのだろうか。
ぼくたちのアーシュラムには、今、秘密はひとつもない。ぼくたちみんなの心はひとつだ。ここにある物はみんなの物だ。
君は自分の宝を隠すのかい。ぼくたちは君と言い争いをしたくない。ぼくたちに話す時、どんな慢心が起きるっていうんだい。どんな傲慢さが出てくるっていうんだい。
ぼくたちは、君の生活の精神的豊かさ、率直さ、やさしさ、愛情、甘いほほえみ、心づかい、謙虚さ、どんな仕事をする時も恥ずかしがらないということを知っている。こんな良い性質を君はどうしてもっているのだろう。話してよ。

君もぼくたちも病人の世話をする。でもそんな時、君はまるで病人の母親のようだ。
なぜぼくたちは君のようにできないんだろう。君はただにっこりほほえんだだけで他の人を友だちにしてしまう。
でもぼくたちは、その人のそばに何時間座って話していても、どうしてその人の心をひきつけることができないのだろう。
話してよ、どこからこの魔法を手に入れたのか。君の人生のこの良い香りはだれがつけたのか。この麝香(じゃこう)はだれがふりかけたのか。

シャム、ワラーダの町の話を知っているかい。むかし、ワラーダの町の金持ちの商人がりっぱな家を建てていた。そこへ、一人のネパール人が麝香を売りにやって来た。
金持ちの商人はその麝香売りに値段を尋ねた。しかし、その麝香売りは嘲笑って答えた。
”南部の貧乏な者が麝香を買うんだって?どれ、売れるかどうか、プーナに行ってみよう”それを聞いて、金持ちの商人はひどく腹を立ててこう言った。
”お前の持っている麝香をぜんぶ買い取ろう。そして壁を作る土に混ぜよう。南部の人々は麝香入りの壁を作ると、北部へ行って言いなさい”
その商人は麝香をぜんぶ買い取り、土の中に混ぜた。ワラーダのその家の壁は今でも麝香の匂いがするという。

シャム、君の人生の壁が建てられた時、いったいだれがそこに麝香をふりかけたの。ぼくたちの生活には香りもなければ形もない。
君のこの香りはどこから来たの。この色はだれがつけたの。話してよ。」

シャムはもう自分を抑えることができませんでした。
「ぼくの母がくれたんだ。みんな!ぼくの中に何か良いところがあるとすれば、それはぼくの母のものだ。母はぼくの先生、ぼくの願いをかなえてくれる魔法の木だった。
母はぼくにすべてのものをくれた。くれなかったものがあるだろうか。何でも与えてくれた。愛情をこめてものを見ること、愛情をもって人と話すことを母はぼくに教えた
人間だけでなく、動物、花や鳥、そして木々をも愛することを母は教えた。
どんなにつらい時でも、不平を言わず、自分の仕事をできるだけ一生懸命にすることも教えた。
ふるいに残った粉からも食べ物を作ることや、貧しい時にも自分を失わずにどのように暮らすべきかも、母はぼくに教えてくれた。
母に教わったほんのー部分も、ぼくは生活の中でまだ実現できていない。
今でもぼくの心の土の中で、種が大きくなっている。
そこから強くてたくましい芽がいつ出てくるのかぼくは知らない。
ぼくの母がぼくの人生に香りふりかけた。ぼくは心の中で言っている。
”ぼくの心の中にいつまでも住んで、ぼくの人生に良い香りをつけてください”
母は香りと色をつけてくれた。ぼくは本当につまらない人間だ。みんな母のものだ。
あの偉い母のものだ。すべてはぼくの母。ああ、お母さん」

こう言いながらシャムはのどをつまらせました。目から涙がどんどん流れ始め、感情の高まりのために、口も手も指もふるえ始めました。
しばらくみんなしんとしていました。星のような気高い静けさが広がっていました。
しぱらくして気持ちが少し落ち着いてから、シャムは言いました。

「みんな。ぼくについては話す価値のあるものは何もない。でもぼくの母がどんな人だつたかをみんなに話すよ。

母の讃歌をうたってこの口を清らかにしよう。母のことを思い出して「毎晩、出来事をーつずつ話していこう。それでいいかい」

「いいとも」
みんなが言いました。
「目を一つくださいとお願いしたら神さまが二つくださったようなものだ」
とラームが言いました。
ゴウィンダーは言いました。
「毎日、甘い飲み物が飲めるぞ。毎日、ガンジス川の水で沐浴ができるぞ」

Googleを作った人物の挑戦:世界を桃源郷に---ラリー・ペイジのインタビュー記事翻訳

本日紹介するのは『FT interview with Google co-founder and CEO Larry Page』という記事です。かのGoogleを作ったラリペさんのインタビュー記事です。

2014年10月の終わりに出た記事で,「20年後、あなたが望もうが、望むまいが現在の仕事のほとんどが機械によって代行される。」と訳されて紹介されていた記事です。

悲観的に受け取られた方もいるのではないかと思うのですが,原文を読むと,ラリペさんはなんて素敵で優しい人なんだろうと私は思いました。

そこで,今回原文全部をほぼ直訳しました。拙い訳ですので,間違いなどありましたら,ご指摘いただけると嬉しいです。

 

 

 目次

 

  1. 記事の引用元
  2. Googleを作ったラリー・ペイジについて
  3. 記事要約
  4. 記事本文

 

 

 

1. 記事の引用元

 

この記事は,以下の『FT interview with Google co-founder and CEO Larry Page』を直訳したものです。


FT interview with Google co-founder and CEO Larry Page - FT.com

 
 

f:id:lyacchyl:20150208221116p:plain

 
 

2. Googleを作ったラリー・ペイジについて

 

Google検索は,ページランクというアルゴリズムで成り立っているわけですが,これを作ったのがラリー・ペイジことラリペさんです。ペイジとページをかけてるんですね。おしゃれです。

スマホAndroidをいまの形にしたのもラリペさんです。

 今回の記事中にスティーブ・ジョブズ氏とのエピソードがありますが,ラリペさんが,まだ投資家の信用も得てない若造な26歳のとき,投資家の勧めで,スティーブ・ジョブズ氏,Amazonジェフ・ベゾス氏や,インテルのアンディー・グローヴ氏とCEOの仕事について話してみたことがありました。

そしてすべてのミーティングを終え,ラリペさんが言った言葉は「スティーブ・ジョブズなら雇ってもいい」だったそうです。

 

 

 

 

3. 記事要約

  • Googleが行っていることは,長期的な忍耐強い投資を提供することである。
  • Googleの大志は,検索宣伝ビジネスから得たお金を世界をよりよくするために投資することだ。
  • 人々の仕事がテクノロジーに取って変わられても,混乱は価格の下落によりすぐ収まる。
  • どんな人が自分の職を失って後悔するのか?一度仕事がテクノロジーによって時代遅れになると,仕事に焦がれて時間を無駄にするのは意味がない。
  • ラリー・ペイジは,大志を抱く理想主義者であるが,自分の抱える課題にきちんと向き合っている。

 

 

 

4. 記事本文

 

Interview with Larry Page
Richard Waters
Richard Watersによるラリーページのインタビュー記事。
 
Wouldn’t the world be a happier place if 90 per cent of the people with jobs put their feet up instead and left the robots to do the work?
 
もし,ロボットが働いてくれるおかげで,90%の人が仕事をせずにくつろげるようになったら,
世界は,より幸福な場所になれないのだろうか?
 
Why didn’t the last house you bought cost only 5 per cent of what you paid for it?
 
支払いのたった5%しかマイホームにかからないようにすればいいのではないか?
 
And is there any reason why you or your children shouldn’t one day enjoy limitless cheap power from nuclear fusion and a greatly extended lifespan?
 
いつの日か,あなたと,それから子どもたちが,核融合で得られる安い無限の電力と大幅に引き延ばされた寿命を享受してはいけない理由があるのか?
These are the sort of questions that occupy Larry Page.
 
ラリー・ペイジは,そういったことで頭がいっぱいである。
 
At 41, the co-founder and chief executive of Google is freeing himself up to think big.
 
41歳,グーグルの共同創立者かつ重役は,非常に広い視野で考える。
 
A reorganisation in recent days has shifted responsibility for much of his company’s current business to a lieutenant and left him with room to indulge his more ambitious urges.
 
最近行われた再組織化は,グーグルの現在のビジネスにかかるペイジの責任を補佐に移し,
ペイジが好きなだけもっと野心的な衝動に熱中するだけの余裕を残した。
 
The message: the world’s most powerful internet company is ready to trade the cash from its search engine monopoly for a slice of the next century’s technological bonanza.
 
メッセージ:世界で最もパワフルなインターネット会社は,検索エンジンの独占から得られるお金と引き換えに次世代技術の金の卵のシェアを手に入れる用意ができている。
 
Looking forward 100 years from now at the possibilities that are opening up, he says:
 
いまから100年先に広がっている可能性に目を向けて,ペイジは言う:
 
“We could probably solve a lot of the issues we have as humans.”
 
「我々はおそらく,人類として負っている多くの課題を解決するでしょう。」
It is a decade on from the first flush of idealism that accompanied its stock market listing, and all Google’s talk of “don’t be evil” and “making the world a better place” has come to sound somewhat quaint.
 
株式市場上場に伴った理想主義のスタートから10年になり,
グーグルの「悪になるな」「世界をよりよい場所に」といった
あらゆるグーグルの言葉がいくぶんか古くさく聞こえるようになった。
 
Its power and wealth have stirred resentment and brought a backlash, in Europe in particular, where it is under investigation for how it wields its monopoly power in internet search.
 
グーグルの力と富は,恨みを抱かせ,反感をかってきた。いかにインターネット検索においてその独占力を振るうかを調査中のヨーロッパでは特にそうだ。
 
Page, however, is not shrinking an inch from the altruistic principles or the outsized ambitions that he and co-founder Sergey Brin laid down in seemingly more innocent times.
 
しかしながら,ペイジは,共同創立者のセルゲイ·ブリンと一緒に,一見もっと素朴に見える時代を築くという特大の大志と利他主義から少しもひるまない。
 
“The societal goal is our primary goal,” he says.
 
「社会的なゴールが,私たちの第一のゴールなのです。」ペイジは言う。
 
“We’ve always tried to say that with Google. I think we’ve not succeeded as much as we’d like.”
 
「私たちは,いつもグーグルを通してそう言おうとしてきました。
私たちは自分たちが望むようには成功していないと自分では思っています。」
 
Even Google’s famously far-reaching mission statement, to “organise the world’s information and make it universally accessible and useful”, is not big enough for what he now has in mind.
 
グーグルの有名な将来にわたる社是:
「世界の情報を体系化し,情報を一般にアクセス可能で役立つものにする。」
でさえ,ペイジが今抱いているものに見合う程大きくない。
 
The aim: to use the money that is spouting from its search advertising business to stake out positions in boom industries of the future, from biotech to robotics.
 
目的:バイオテクノロジーからロボット工学まで,未来の景気づく産業において,
立場を確保するためにグーグルの検索宣伝ビジネスから噴き出すお金を使うこと
 
Asked whether this means Google needs a new mission statement, he says: “I think we do, probably.”
 
これが新たな社是をグーグルが必要としていることを意味するか否かを尋ねられると,
ペイジは言う。「おそらく,私たちは新しい社是を必要としていると私は思っています。」
 
As to what it should be: “We’re still trying to work that out.”
 
グーグルがどうなるべきかについて:「私たちは,さらにうまくいかせようとしています。」
When we met recently for a wide-ranging interview at his company’s Silicon Valley headquarters, Page displayed the characteristically tentative personal style that is a marked contrast to the definitive self-assurance of most corporate bosses.
 
最近,広範囲のインタビューのために,
シリコンバレーにあるグーグル本社で我々に会ったとき,
ほとんどの社長が持つ最も信頼のおける自信とは実に正反対な,
特徴的で,ためらいがちな自分のスタイルをペイジは見せた。
 
No doubt aware of the added responsibility that comes with running a company with 55,000 workers that is increasingly under the spotlight, he also chooses his words more carefully than he once did.
 
ますます脚光を浴びて,
5万5千人の社員が働く会社を経営する上で増えゆく責任を感じるのは疑いようがなく,
また,ペイジはかつてよりずっと注意深く言葉を選ぶようになった。
 
But there has been no apparent change to the ambition and the expansiveness of his ideas – even if, as the father of two young children, he says he has become more conscious of long-term issues such as education.
 
しかしながら,大志とペイジのアイディアの雄大さに明白な変化はない。
それは,たとえ2人の若い子供たちの父親として,教育のように長期的な課題をより意識するようになってもだ,とペイジは言う。
 
Page finds himself at the helm of one of the world’s most powerful tech companies at a moment in history when the onrush of technological change is threatening to bring sweeping social and business disruption.
 
歴史上,技術変化の奔流が,徹底的な社会またはビジネスの崩壊をもたらす程脅迫的であるとき,
ペイジは自分が,世界で最もパワフルなテクノロジーカンパニーの一つの舵取りだと気付く。
 
Google’s goals are bigger than most – yet, even as it pours money into new ventures, the cash keeps piling up.
 
グーグルのゴールは,他より大きい。
いまなお新しいベンチャーにお金を注ぎ込んでもキャッシュは蓄積され続けている。
 
It now exceeds $62bn.
 
今や620億ドルを越える。
 
“We’re in a bit of uncharted territory,” he says.
 
「私たちは今,ちょっとばかり未知の領域にいます,」ペイジは言う。
 
“We’re trying to figure it out.How do we use all these resources . . . and have a much more positive impact on the world?”
 
「私たちは,見出そうとしています。
どのようにこれら全ての資産を使うか…そしてどのように世界にもっとずっと良い影響をもたらすかを。」
 
For Google’s investors, who have already become wary recently about the size of the company’s massive bets on the long-term future, this could be just the beginning.
 
グーグルの投資家たちが,グーグルの長期的な将来への大規模な賭けの大きさに最近慎重になっているが,これはほんの始まりに過ぎない。
 
As Page sees it, it all comes down to ambition – a commodity of which the world simply doesn’t have a large enough supply.
 
ペイジからすれば,それは全て大志にいきつく。
世界が単純に十分に大きな供給を持っていない便利なものという大志だ。
 
In the midst of one of its periodic booms, Silicon Valley, still the epicentre of the tech business world, has become short-sighted, he says.
 
定期的に訪れるブームの1つの真っただ中にあって,シリコンバレーは,いまだテクノロジービジネスの中心地ではあるが,目先のことしか見なくなっているとペイジは言う。
 
While arguing that the Valley isn’t fundamentally “broken”, he agrees that it is overheated – though how much that matters is a different issue.
 
根本的には「壊れた」わけではないと主張しながらも,シリコンバレーは過熱しているとペイジは言う。それがどれ程重要かは,また別の論点として。
“There’s definitely a lot of capital and excitement, and these things tend to happen in cycles,” he says.
 
間違いなく多くの資本と興奮させるものが存在して,これらは周期的に起きる。」とペイジは言う。
 
“But 100 years from now you’re probably not going to care about that.”
 
「しかし今から100年間,あなたはおそらくそのことを気にかけないでしょう。」
Much of the money pouring into the tech industry is drawn by the promise of easy profits from the latest consumer internet boom, he says.
 
テクノロジー産業へ注ぎ込まれるお金の多くは,最新のインターネットブームの消費者から楽に得られる儲けに引き寄せられている。
 
“You can make an internet company with 10 people and it can have billions of users.
 
「あなたも10人でインターネット会社を立ち上げて,何十億人ものユーザーを抱えられるのです。」
 
It doesn’t take much capital and it makes a lot of money – a really, really lot of money – so it’s natural for everyone to focus on those kinds of things.”
 
そんなに資本はかからないし,多くのお金を稼ぐことができる。本当に,本当に多額の。だから誰もがこの種のことに集中するのは当然なんです。
Page estimates that only about 50 investors are chasing the real breakthrough technologies that have the potential to make a material difference to the lives of most people on earth.
 
地球上のほとんどの人の生活に物質的に違いをもたらす潜在能力を持つテクノロジーの真のブレークスルーを,たった50人の投資家が追いかけるとペイジは見積もっている。
 
If there is something holding these big ideas back, it is not a shortage of money or even the barrier of insurmountable technical hurdles.
 
これらの大きなアイディアを何か抑えるものがあるとすればそれは,資金不足でもなければ,克服できない技術的なハードルの壁でさえもない。
 
When breakthroughs of the type he has in mind are pursued, it is “not really being driven by any fundamental technical advance.
 
ペイジが思い描いてる類のブレークスルーが達成されようとするとき,
「それが推進されるのは,いかなる基本的な技術進歩によってでもありません。
 
It’s just being driven by people working on it and being ambitious,” he says.
 
単に人々がそれに従事し大志を抱いたから,ブレークスルーは推進されるのです。」とペイジは言う。
 
Not enough institutions – particularly governments – are thinking expansively enough about these issues: “We’re probably underinvested as a world in that.”
 
課題:「私たちはおそらく世界の中で,1つの世界として過少投資されている。」
十分な範囲でこれらの課題を考えている機関の数は十分ではない。特に政府は。
 
To the question of whether a private company, rather than governments, should be throwing its weight behind some of the world’s most long-range and ambitious science projects, he retorts: “Well, somebody’s got to do it.”
 
政府よりはむしろ民間企業が自分の地位を利用してまで,世界のもっとも長期に渡る,大望のある科学プロジェクトを支援すべきなのにしていないかどうかという質問に対して,ペイジは気の利いた答えを言う:「うーん,誰かがそれをしなければいけません。」
This is where Page’s engineer’s mind comes into play.
 
これは,ペイジのエンジニア心が現れたところだ。
 
The son of a computer science professor father, he likes, according to people who know him, nothing more in internal meetings than to burrow deep into technical issues.
 
コンピュータサイエンスの教授である父を持つペイジは,
彼を知る人々によると,社内会議で技術的課題を深く議論するより好きなことはない。
 
He describes, for instance, how he drills down into how Google’s data centres are run, following the issue of how much the company pays for power into questions about the design of electricity grids.
 
ペイジは説明する。例えば,グーグルのデータセンターがどのように運営されているかということを,どのように掘り下げていくかというと,どれだけ電力にお金を払っているかという課題は,電力供給網のデザインについての質問になる。
 
With the right focus and application, he implies, there’s nothing that can’t be improved and made to run more efficiently.
 
正しい集中と応用を伴えば,より改善し,より効率よく運営できないものなんて存在しないとペイジはほのめかす。
A recent visit to a start-up working on nuclear fusion has enthused him with the possibility of a breakthrough in low-cost energy.
 
最近の核融合に従事する新規事業の訪問は,低コストエネルギーのブレークスルーの可能性からペイジを興奮させた。
 
Another start-up has surprised him by being able to “read” the mind of a human subject being shown visual images.
 
また他の新規事業は,映像を見せられている被験者の心を「読む」ことができる技術によってペイジを驚かせた。
 
“A really smart group of committed people with $50m can make a lot of progress on some of these problems.
 
「5000万ドルを持つ本当に賢いグループは,このような問題に多くの進展を生めます。
 
But not enough of that’s happening,” he says.
 
しかし,そのようなことは十分に起こってはいないのです。」とペイジは言う。
Some of Google’s own big bets are in areas that he describes as being at the “fringes” – things that seem open to a technological solution but which, for some reason, have not received concerted attention.
 
グーグル所有の大きな賭け金の一部は,「シマ」とペイジが表現する地域にある。その場所は,技術的な解決に開けているように見えるけれども,なんらかの理由で注目を集めていないところである。
 
As examples, he picks self-driving cars and the diseases that afflict older people – the latter a field that his wife worked in at a lab at Stanford University.
 
例として,ペイジは自動運転車と高齢者を悩ませる病気を挙げた。
後者は,スタンフォード大学の研究室でペイジの奥さんが取り組んでいる分野だ。
 
“It wasn’t a high-status thing,” he says.
 
「それは地位の高いものではなかった」ペイジは言う。
 
Through a new biotech arm called Calico, Google is now planning to plough hundreds of millions of dollars of its own into the area.
 
Calicoと呼ばれる新しいバイオテクノロジーの機関を通して,Googleは今,何億ドルもの自己資金を,この高齢者を悩ませる病気に取り組むエリアに設備投資しようとしている。
“We do benefit from the fact that once we say we’re going to do it, people believe we can do it, because we have the resources,” he says.
 
「私たちには資金があるので,やるぞと一度言えば,この人たちならできると人々に信じてもらえます。その事実にはとても恩恵を受けています。」ペイジは言う。
 
Google helps in that way: there aren’t many funding mechanisms like that.”
 
「グーグルはそのように手助けします:そのような資金調達メカニズムは多くは存在しません。」
 
But compared with its heady early days, when every brash initiative was welcomed by an adoring public with the indulgence of a parent celebrating a child’s finger paintings, the onrush of technological change has started to stir up fear.
 
しかし,初期と比べて技術的な変化の高まりが不安をかき立て始めた。その初期には,性急な技術的イニシアティブが出現するたびに,親が子のフィンガーペインティングを褒め称えるような受け入れをする熱狂的な層によって歓迎されていたものだった。
 
“I think people see the disruption but they don’t really see the positive,” says Page.
 
「人々は混乱を見ますが,本当に良い面に目を向けません,」ペイジは言う。
 
“They don’t see it as a life-changing kind of thing . . . I think the problem has been people don’t feel they are participating in it.”
 
「人々はそれを人生を変えるようなものとして見ません…問題は人々がそれに参加したがらないことだと私は思います。」
A perennial optimist when it comes to technology, he argues that all that will change.
 
テクノロジーのこととなると,いつも楽観主義者であれば,全ては変わるとペイジは言います。
 
Rapid improvements in artificial intelligence, for instance, will make computers and robots adept at most jobs.
 
例えば,急速な人工知能の発展により,コンピュータとロボットがほとんどの仕事に順応するだろう。
 
Given the chance to give up work, nine out of 10 people “wouldn’t want to be doing what they’re doing today”.
 
仕事をやめる機会を与えられたら,10人中9人は「今日自分がやっていることを,やりたいとは思わないでしょう。」
What of people who might regret losing their work? Once jobs have been rendered obsolete by technology, there is no point wasting time hankering after them, says Page.
 
どんな人が自分の職を失って後悔するのか?一度仕事がテクノロジーによって時代遅れになると,仕事に焦がれて時間を無駄にするのは意味がない。
 
“The idea that everyone should slavishly work so they do something inefficiently so they keep their job – that just doesn’t make any sense to me. That can’t be the right answer.”
 
「全ての人は奴隷のように働くべきで,だから人は何かを非効率に行い,だから仕事を続けるという考えは,全く私にとって意味を成しません。それは正解になりえません。」
He sees another boon in the effect that technology will have on the prices of many everyday goods and services.
 
テクノロジーがたくさんの日用品や毎日のサービスの価格にもたらすであろう影響の中に,ペイジは異なる恩恵を見ています。
 
A massive deflation is coming: “Even if there’s going to be a disruption on people’s jobs, in the short term that’s likely to be made up by the decreasing cost of things we need, which I think is really important and not being talked about.”
 
巨大なデフレが来る:「たとえもし,人々の仕事に混乱が生じても,
それは私たちが必要とするものの価格の低下によって短期間に引き起こされ,
私が思うに本当に重要なのに,話し合われていないのです。」
 
New technologies will make businesses not 10 per cent, but 10 times more efficient, he says.
 
新しいテクノロジーは,10%ではなく,10倍以上効率を上げる,とペイジは言う。
 
Provided that flows through into lower prices: “I think the things you want to live a comfortable life could get much, much, much cheaper.”
 
ものの値段が下がっていくのを考えてください:「あなたが快適な生活を過ごすために欲しいものは,ずっと,ずっと,ずっと安く手に入れられると私は考えています。」
 
Collapsing house prices could be another part of this equation.
 
崩壊する住宅価格は,この方程式のもう一つの部分です。
 
Even more than technology, he puts this down to policy changes needed to make land more readily available for construction.
 
テクノロジーもさることながら,ペイジはこの方程式を,とある方針の変化にも当てはめるのである。その方針というのは,建設のためにより簡単に利用できる土地を作るために必要とされる方針である。
 
Rather than exceeding $1m, there’s no reason why the median home in Palo Alto, in the heart of Silicon Valley, shouldn’t cost $50,000, he says.
 
1000万ドルどころか,パロ・アルト,シリコンバレーの中心にある平均的な家に,5万ドルも払わなければならないいかなる理由も見いだせない,とペイジは言う。
 
For many, the thought of upheavals like this in their personal economics might seem pie in the sky – not to mention highly disturbing.
 
多くの人にとって,このような個人の経済の大変動の考えは,現実性のないものに見えるだろう。
非常に動揺させるとまでは言わないが。
 
The prospect of millions of jobs being rendered obsolete, private-home values collapsing and the prices of everyday goods going into a deflationary spiral hardly sounds like a recipe for nirvana.
 
数百万の仕事が時代遅れとなり,個人の家の価値は崩壊し,日用品の価格はデフレスパイラルとなるという見通しは,極楽への方策のようにはとても聞こえない。
 
But in a capitalist system, he suggests, the elimination of inefficiency through technology has to be pursued to its logical conclusion.
 
しかしながら,資本主義体制において,テクノロジーを介して非効率を消すことは,
論理的な結論まで追求できるとペイジは示唆する。
 
“You can’t wish away these things from happening, they are going to happen,” says Page.
 
「これらのことが起きなければ良いと願うことはできません。これらのことは起きるのです。」ペイジは言う。
 
“You’re going to have some very amazing capabilities in the economy. When we have computers that can do more and more jobs, it’s going to change how we think about work.
 
「経済において,かなりの量のとても素晴らしい能力を持つでしょう。私たちが,もっともっと色々なことができるコンピュータを持つ頃には,仕事に対する私たちの考え方は変わっていっているでしょう。」
 
There’s no way around that. You can’t wish it away.”
 
その他に方法はないのです。退けることはできません。
 
. . .
 
When it comes to discussing policy, Page, like many technocrats, quickly sounds frustrated by the intractability of issues that are not susceptible to the kind of rigour he brings to his technological inquiries.
 
方針を議論することになれば,多くのテクノロジーのように,
技術的な疑問を抱かせるある種の困難を受け入れる余地がないという
課題の取り扱いにくさに,ペイジはすぐに失望を表す。
 
“I do think there’s a tremendous amount of angst about these things and we’ve got to turn it round,” he says, though he has few concrete ideas about how to do that.
 
 「これらのことにとてつもなく大きな不安があるし,ひっくり返さなきゃいけないと私は思います。」
とペイジは言う。それをどのようにすべきか具体的なアイディアはないけれども。
 
“As a society, it’s very difficult to do something differently, and I don’t think that’s good.
 
「社会として,違うように何かするのは非常に難しく,そして,私はそれを良いとは思っていません。」
 
“Some of the most fundamental questions which people are not thinking about, there’s the question of how do we organise people, how do we motivate people,” he says.
 
「人々が考えていそうにない最も基本的な問いのいくつかは,私たちがどのように人々を組織し,人々をどうやって動機付けるかという問いである。」ペイジは言う。
 
“It’s a really interesting problem, how do we organise our democracies? If you look at satisfaction in the US, it’s not going up, it’s going down. That’s pretty worrying.”
 
「それは本当に興味深い問題で,私たちはどうやって民主主義を組織するのでしょう?
アメリカでの満足感を調べてみると,良くなってはいなくて,悪くなっています。
これはとても心配なことです。」
 
In a reference to what he sees as Europe’s weak support for entrepreneurialism and technology, he adds: “I think many of the problems in Europe are like that.”
 
起業家精神とテクノロジーへのヨーロッパの貧弱な支援だとペイジが考えているものの資料の中に,ペイジは追加した:「ヨーロッパにおける問題の多くはこれと似たようなものだと思う。」
 
Another obstacle lies closer to home. In reaching for the tech industry’s ultimate prizes, Google may already be knocking up against the limits of what it is possible for one company to do.
 
また別の障壁が身近に横たわっている。テクノロジー産業の究極的目標に到達するには,たぶんグーグルは既に1つの会社で行うのが可能なことの限界にきてしまっている。
 
Page relates a frequent debate that he says he had with Steve Jobs, the boss of Apple, who died three years ago:
 
ペイジは,3年前に亡くなったアップルの社長であるスティーブ・ジョブズと頻繁に行っていたという議論について話した:
 
“He would always tell me, You’re doing too much stuff. I’d be like, You’re not doing enough stuff.”
 
「スティーブは,いつも私に,『君はあまりにもたくさんのことを詰め込んでやりすぎだよ』って言ってきたものさ。私は言い返していたんだ『君の方こそ,十分に詰め込んでやらなすぎだよ。』ってね。」
 
The argument he made to Jobs: “It’s unsatisfying to have all these people, and we have all these billions we should be investing to make people’s lives better.
 
ペイジがジョブズにしていた議論:「これら全ての人を持っているだけ,数十億ドルを持っているだけじゃ不満なのです,人々の生活をより良くするために投資すぺきなんです。
 
If we just do the same things we did before and don’t do something new, it seems like a crime to me.”
 
私たちが単に同じことをして,私たちが前と同じようにやって,何も新しいことをしないならば,それは私には罪のように思えるのです。」
 
But the idealism does not blind him to the problem of his own ambition.
 
しかし,理想主義によって,ペイジは,自身の持つ大志の問題から目を背けているわけではない。
 
“What Steve said is right – you, Larry, can only manage so many things.”
 
「スティーブが言っていたことは正しかった--『ラリー,君はとても多くのことを扱うことしかできないんだ。』」
 
If he – and Google – are to win, they will have to beat the odds that have held big companies back in the past, particularly in the tech industry, where few leaders from one generation of technology have made it big in the next.
 
もしペイジ--そしてグーグルが勝利を収めるならば,彼らは大きな会社を過去に押し戻すという逆境に打ち勝たなければならないだろう。特に1つのテクノロジーの世代からの数少ないリーダーが次にそれを大きくするテクノロジー産業においては。
“The biggest companies are all within an order of magnitude of the same size, certainly in market cap,” says Page, who has a palpable sense of the limits against which his company is already pushing.
 
「大企業というのは全て(時価総額が)同じ大きさの桁内にあります。」と自分の会社が既に限界を越えているという明白な感覚を持っているペイジは言う。
 
“You say we’re going to take over all these important things, but there’s no example of a company doing that.”
 
「あなた方は,グーグルはこれらの重要なこと全てを奪うつもりだと言うかもしれませんが,しかしそれを行っている会社の例は存在しないのです。」
 
His thinking about how to break through the invisible ceiling seems to have been evolving of late.
 
どうやって見えない天井を突き破るかについてのペイジの考えは,最近進化してきたようだ。
 
Google X, the internal lab that was the brainchild of Brin, marked a first attempt to back big new ideas, with projects such as Glass and the driverless car.
 
グーグルエックスは,Brinの発案の内部研究所であり,グーグルグラスや自動運転車といったプロジェクトを伴う大きな新しいアイディアに戻ろうという初の試みを示している。
 
Despite Brin stepping back from Google’s main business, Page still describes them as close allies.
 
ブリンがグーグルのメインビジネスから退いたにも関わらず,ペイジは彼らを身近な敵と表現する。
 
“We spent a lot of time together . . . there are very few people who share that experience,” he says. Of Brin’s constant agitation to reach for the biggest bets, he adds: “He’s always on the more extreme side, which is important.”
 
「私たちは,たくさんの時間を共にしてきました…こんな経験を共有する人というのはほんのわずかです。」とペイジは言う。最も大きな賭けに到達しようと途切れなくBrinがかき立てることについて,ペイジは付け足す:「重要で,もっとエキストリームな側にブリンは常にいるんです。」
 
Now, moving beyond X, Page is experimenting with setting up freestanding business units with semi-independent leaders charged with building big new businesses under the wing of Google.
 
いまや,エックスを超えて,ペイジは準独立のリーダーたちと一緒に独立した事業分野を設定し,グーグルの翼下で大きな新しいビジネスの立ち上げを委ねることをペイジは試している。
 
Besides Calico, Google has revealed in recent days that these will include the “smart home” division Nest, as well as a new unit comprising its investments in internet access and energy.
 
Calicoに加えて,グーグルは最近,インターネットアクセスとエネルギーにおける投資からなる新しい分野だけでなく,「スマートホーム」担当のNestをこれらに含めることを明らかにした。
 
Google has also quickly emerged in the past two years as the biggest venture capitalist in Silicon Valley.
 
グーグルはまた,シリコンバレーベンチャーへの最も大きな投資家として過去2年間で急速に存在感を出してきている。
 
There is no model for the kind of company Google wants to become, says Page.
 
グーグルの理想像のモデルとなる企業は存在しない。とペイジは言う。
 
But if there’s a single person who represents many of the qualities he thinks will be needed for the task ahead, then it’s famed investor Warren Buffett.
 
しかしもしこの先に待ち構える課題に必要とペイジが考える資質の多くを表現できる1人の人が存在するとするならば,それはかの有名な投資家であるウォーレン・バフェットである。
Sounding not at all like the idealistic young technologist who once spoke of brain implants that would answer questions by the power of thought, he says: “One thing we’re doing is providing long-term, patient capital.”
 
かつて思考力によって問題に答えようとする脳移植を語った理想主義者的な若い技術者たちとは全く異なって 
ペイジは言う:「1つ私たちが行っていることは,長期的な忍耐強い投資を提供することなんです。」
He is at an age where he can still afford to take the long view.
 
ペイジは,まだ長い目で見られる年齢です。
 
But with an ambition that shows few bounds, patience may be another matter.
 
しかしながら,わずかな限界を示す大志を携えて,忍耐は別問題である。

Richard Waters is the FT’s US West Coast editor
Photographs: David Black; Steve Jennings/WireImage; Getty; Reuters; Eyevine
 
-------------------------------------------
Letters in response to this article:
Baumol’s law says house prices won’t ‘collapse / From Robert Denham
Driving swaths of people out of work is an odd goal / From Thomas Newman

ものは見かけによらないんだよ~ファインマン物理学のすすめ1~

目次

  1. ファインマンさんは超天才

  2. 震える原子たち

  3. ファインマン流授業:木はどこからきた?

 

1. ファインマンさんは超天才

今日紹介するのは『ファインマンさんは超天才』の一部です。

そう,ファインマンさんは超天才なんです。

 

皆が解けなかった問題をわずか二時間で解いてしまう。

コンピュータより早く正確に答えを出してしまう。

三つの難問を同時にこなしてしまう。

人間としても型破りで愉快。

名誉が嫌いで,ノーベル賞さえ,もらいたくなかったと言い,

「若いうちにノーベル賞を受賞したせいで,皆が彼を本気にするようになり,

彼のイカレた所行も,すべてその天才によるところだと見てもらえるようになった。」

と言われてしまう始末。

誰とでも,たとえララムリ語しか話せない人とだって,仲良くなれちゃうし,

コスプレも全力で楽しむし,ボンゴがうまくて,

「積極的無責任」と言って,大学の雑務を拒否して,科学に没頭する。

そんなファインマンさんのお話です。

 

 

2.震える原子

 「もしもいま何か大異変が起こって,科学知識が全部なくなってしまい,たった一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられないということになったとしたら,最小の語数で最大の情報を与えるのはどんなことだろうか。」

という質問に,ファインマンさんは,

「私の考えでは,それは原子仮説(原子事実,その他,好きな名前でよんでよい)だろうと思う。すなわち,すべてのものはアトムーー永久に動きまわっている小さな粒で,近い距離では互いに引きあうが,あまり近付くと互いに反撥するーーからできている,というのである。これに少し洞察と思考とを加えるならば,この文の中に,我々の自然界に関して実に厖大な情報量が含まれていることがわかる。」

と答えました。

ファインマン物理学 第一巻より)

 

ものはみかけによりません。

「熱い」「冷たい」は,実は原子の震える速度によるのです。

熱いものの中で激しく震えている原子は,

冷たいものの中でしか震えていない原子を揺すぶるから,

私たちは,熱は冷たいものに伝わると説明するのです。

 

ファインマンさんは,震える原子について,具体例を交えながら,

熱が伝わる理由,

水滴が平にならない理由,

気体,液体,固体の変化と原子の様子,

摩擦と熱の関係などを説明します。

それに続く説明を

3. ファインマン流授業:木はどこからきた?

に引用します。

 

3.ファインマン流授業:木はどこからきた?

原子が引きあうにも程度があって,
たとえば空気中の酸素は炭素の傍らにいたがるから,
それらを近づけるとパッと結びつく。
だが十分に近くないときは,
くっつくことができるとは知らずかえって反発しあって離れていく。
たとえて言えば,
コロコロ転がりながら丘に登っていくボールのようなもんだ。
そのてっぺんに火山の噴射口のような深い穴があるとする。
急な坂を登りはじめたボールがその穴のそばまで転がっていっても,
速度がのろいと穴に落ちるところまでいかず,
あわやというところで転がり落ちてしまう。
だがそのボールをうんと早く転がせば,
てっぺんの縁を越えてその穴に落ちるにちがいない。
いま材木と酸素があるとしよう。
材木は炭素を含んでいる。
そこへ酸素が近づいてきてそれにぶつかるが,
強さが足りないとまた離れていってなにごとも起こらない。
ところがなんらかの方法で熱するなどして,
あらかじめ酸素の勢いをもっと強くしておけば,
酸素原子の何個かはかなりのスピードで,
いわば「てっぺんを越えて」ぶつかってくる。
そして炭素原子に十分近づけばパッと飛びつくわけだ。
するとそれが激しく揺れ動き,
ひょっとすると他の原子にぶつかって,
それをうんと速く動かす結果になるかもしれない。
するとその原子は「登りつめて」他の原子にぶつかる。
と,今度はそれが震えて,他の原子どもを震わせ始める。
こうなると一大事だ。つまり火事なんだからね。
つまりこれは一つの見方さ。

さてこの強い結びつきあいのせいでますます震えが激しくなるが,
中で原子がこれだけ活発に運動しているたくさんの木片の上に
やかんでも置けば,その中の原子もひどく揺すぶられる。
火の熱とはそういうものなんだよ。
もちろん君たちはここで,
いったい木片はどこからきたのかを考えるだろうな。
それは木からきたんだが,木の実質は炭素でできている。
ではその炭素はどこからきたのか。
それは空気から,空中の二酸化炭素から来たんだよ。
人は木を見てそれが土から出てきたと思っているが,
実は空気からできてくるんだ。
空中の二酸化炭素は木の中に入っていって,
木はそれを変える。つまり酸素を追い出して炭素から離れさせ,
炭素物資を水と結びつける。
(水は地中から出てくるんだが,
ではその水はどうやって土の中に入ったんだろうな?
空気から,空から降ってきたんだよ。
こうしてみると木の実質のほとんどは空気から来たことになる。
土からきたものは,なにがしかの鉱物元素などほんのわずかしかない。)

さて,誰もが知っているとおり,
酸素と炭素はたいへんかたく結びついているが,
そのようにしっかり結びついている二酸化炭素を取り入れ,
それを簡単に切り離せる木は,なぜそう利口なんだろう?
「ああ! 自然にはなにか神秘的な力があるんだ!」
と君たちは言うかもしれない。
だがそうじゃないんだ。
太陽が照っている。
そしてこの太陽の光が降ってきて炭素から酸素をつき離す。
そして木は木の実質を作る水や炭素を残して,
このやっかいな副産物である酸素を空中に吐き出すわけさ。
僕らがその木の実質をとって暖炉にほうり込むと,
木が作った空気中の酸素と木の中の炭素とは
またよりを戻して一緒にいたがる。
そこに熱を加えていったん活動を始めさせれば,
もと通り一緒になるあいだ盛んに運動をおこす。
その結果でてくる快い光と熱は,
実はずっと前に木に入った太陽の光と熱なんだよ。
丸太を燃やすと,いうなれば「貯蔵されていた太陽」が出てくるんだ。
さて次の質問はなぜ太陽がそう震え動き,
そう熱いのか,ということだが,きりがないからこれぐらいにしておこう!
君たちにも少しは想像の余地を残しておかなくてはね。

 

 

 

 

 

 

ファインマンさんは超天才 (岩波現代文庫)
C.サイクス
岩波書店
売り上げランキング: 304,484