ものは見かけによらないんだよ~ファインマン物理学のすすめ1~

目次

  1. ファインマンさんは超天才

  2. 震える原子たち

  3. ファインマン流授業:木はどこからきた?

 

1. ファインマンさんは超天才

今日紹介するのは『ファインマンさんは超天才』の一部です。

そう,ファインマンさんは超天才なんです。

 

皆が解けなかった問題をわずか二時間で解いてしまう。

コンピュータより早く正確に答えを出してしまう。

三つの難問を同時にこなしてしまう。

人間としても型破りで愉快。

名誉が嫌いで,ノーベル賞さえ,もらいたくなかったと言い,

「若いうちにノーベル賞を受賞したせいで,皆が彼を本気にするようになり,

彼のイカレた所行も,すべてその天才によるところだと見てもらえるようになった。」

と言われてしまう始末。

誰とでも,たとえララムリ語しか話せない人とだって,仲良くなれちゃうし,

コスプレも全力で楽しむし,ボンゴがうまくて,

「積極的無責任」と言って,大学の雑務を拒否して,科学に没頭する。

そんなファインマンさんのお話です。

 

 

2.震える原子

 「もしもいま何か大異変が起こって,科学知識が全部なくなってしまい,たった一つの文章だけしか次の時代の生物に伝えられないということになったとしたら,最小の語数で最大の情報を与えるのはどんなことだろうか。」

という質問に,ファインマンさんは,

「私の考えでは,それは原子仮説(原子事実,その他,好きな名前でよんでよい)だろうと思う。すなわち,すべてのものはアトムーー永久に動きまわっている小さな粒で,近い距離では互いに引きあうが,あまり近付くと互いに反撥するーーからできている,というのである。これに少し洞察と思考とを加えるならば,この文の中に,我々の自然界に関して実に厖大な情報量が含まれていることがわかる。」

と答えました。

ファインマン物理学 第一巻より)

 

ものはみかけによりません。

「熱い」「冷たい」は,実は原子の震える速度によるのです。

熱いものの中で激しく震えている原子は,

冷たいものの中でしか震えていない原子を揺すぶるから,

私たちは,熱は冷たいものに伝わると説明するのです。

 

ファインマンさんは,震える原子について,具体例を交えながら,

熱が伝わる理由,

水滴が平にならない理由,

気体,液体,固体の変化と原子の様子,

摩擦と熱の関係などを説明します。

それに続く説明を

3. ファインマン流授業:木はどこからきた?

に引用します。

 

3.ファインマン流授業:木はどこからきた?

原子が引きあうにも程度があって,
たとえば空気中の酸素は炭素の傍らにいたがるから,
それらを近づけるとパッと結びつく。
だが十分に近くないときは,
くっつくことができるとは知らずかえって反発しあって離れていく。
たとえて言えば,
コロコロ転がりながら丘に登っていくボールのようなもんだ。
そのてっぺんに火山の噴射口のような深い穴があるとする。
急な坂を登りはじめたボールがその穴のそばまで転がっていっても,
速度がのろいと穴に落ちるところまでいかず,
あわやというところで転がり落ちてしまう。
だがそのボールをうんと早く転がせば,
てっぺんの縁を越えてその穴に落ちるにちがいない。
いま材木と酸素があるとしよう。
材木は炭素を含んでいる。
そこへ酸素が近づいてきてそれにぶつかるが,
強さが足りないとまた離れていってなにごとも起こらない。
ところがなんらかの方法で熱するなどして,
あらかじめ酸素の勢いをもっと強くしておけば,
酸素原子の何個かはかなりのスピードで,
いわば「てっぺんを越えて」ぶつかってくる。
そして炭素原子に十分近づけばパッと飛びつくわけだ。
するとそれが激しく揺れ動き,
ひょっとすると他の原子にぶつかって,
それをうんと速く動かす結果になるかもしれない。
するとその原子は「登りつめて」他の原子にぶつかる。
と,今度はそれが震えて,他の原子どもを震わせ始める。
こうなると一大事だ。つまり火事なんだからね。
つまりこれは一つの見方さ。

さてこの強い結びつきあいのせいでますます震えが激しくなるが,
中で原子がこれだけ活発に運動しているたくさんの木片の上に
やかんでも置けば,その中の原子もひどく揺すぶられる。
火の熱とはそういうものなんだよ。
もちろん君たちはここで,
いったい木片はどこからきたのかを考えるだろうな。
それは木からきたんだが,木の実質は炭素でできている。
ではその炭素はどこからきたのか。
それは空気から,空中の二酸化炭素から来たんだよ。
人は木を見てそれが土から出てきたと思っているが,
実は空気からできてくるんだ。
空中の二酸化炭素は木の中に入っていって,
木はそれを変える。つまり酸素を追い出して炭素から離れさせ,
炭素物資を水と結びつける。
(水は地中から出てくるんだが,
ではその水はどうやって土の中に入ったんだろうな?
空気から,空から降ってきたんだよ。
こうしてみると木の実質のほとんどは空気から来たことになる。
土からきたものは,なにがしかの鉱物元素などほんのわずかしかない。)

さて,誰もが知っているとおり,
酸素と炭素はたいへんかたく結びついているが,
そのようにしっかり結びついている二酸化炭素を取り入れ,
それを簡単に切り離せる木は,なぜそう利口なんだろう?
「ああ! 自然にはなにか神秘的な力があるんだ!」
と君たちは言うかもしれない。
だがそうじゃないんだ。
太陽が照っている。
そしてこの太陽の光が降ってきて炭素から酸素をつき離す。
そして木は木の実質を作る水や炭素を残して,
このやっかいな副産物である酸素を空中に吐き出すわけさ。
僕らがその木の実質をとって暖炉にほうり込むと,
木が作った空気中の酸素と木の中の炭素とは
またよりを戻して一緒にいたがる。
そこに熱を加えていったん活動を始めさせれば,
もと通り一緒になるあいだ盛んに運動をおこす。
その結果でてくる快い光と熱は,
実はずっと前に木に入った太陽の光と熱なんだよ。
丸太を燃やすと,いうなれば「貯蔵されていた太陽」が出てくるんだ。
さて次の質問はなぜ太陽がそう震え動き,
そう熱いのか,ということだが,きりがないからこれぐらいにしておこう!
君たちにも少しは想像の余地を残しておかなくてはね。

 

 

 

 

 

 

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