日本とアメリカどこが違う?ノーベル賞受賞者中村修二氏言いたい放題

昨年ノーベル賞を受賞された中村修二さんの講演を元に書いた記事です。

 

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 (ノーベル賞公式Twitterアカウントより)

 

目次

1. 中村修二さんについて

2. 何を学ぶのが一番大事?洗脳だらけの日本の教育。

3. 研究者の理想の姿は?

4. ベンチャーの失敗,アメリカでは投資家の責任。日本では誰の責任?

5. アメリカと比べると疑問だらけ?日本の司法制度。

1. 中村修二さんについて

1954年,愛媛県生まれ。工学博士。
1979年,徳島大学院工学研究修士課程を修了後,日亜化学工業に入社。
窒化物系材料を使用した発光デバイスの研究開発に先駆的に取り組み,
1993年に青色,1995年に緑色の高輝度発光ダイオードの製品化に世界で初めて成功した。
また,1995年には紫色半導体レーザーを実現している。
1999年12月に日亜化学工業を退社し,2000年に米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校・材料物性工学部教授に就任。
仁科記念賞,本田賞,朝日賞,ベンジャミン・フランクリン・メダル工学賞など国内外の科学賞を多数受賞。
2014年ノーベル賞受賞。

2. 何を学ぶのが一番大事?洗脳だらけの日本の教育。

”教育という名前の,実際は洗脳です”

と中村さんが表現するのは,ご自身の体験からです。
高校に入った瞬間から学校の先生から,「おまえらは今が一番大事な時だ。だから大学受験の勉強ばかりしろ。大学受験の結果でおまえたちの人生はすべて決まるから,運動クラブなんか一切するな。有名大学に入ったら,後はバラ色の人生が待っている」と言われ続けたそうです。

大学に入って,好きなことができるかと思いきや,2年間の教養課程があって,また全科目を勉強しなければならない。中村さんは,大学に一,二週間通って,

”こんなくだらない大学にはもう行かない”

と言って,下宿に閉じこもって仙人生活に入りました。半年間,下宿に閉じこもって,好きな物理などをやっていたそうです。そのうち物理の究極は哲学だと考えるようになり,哲学書などを自然に読むようになったそう。高校まで大嫌いな文系の哲学を,です。

” 結局,試験のための勉強ではなくて,自分で自然に好きになるんですよね”

”当時はオイルショックによる不景気ということもあって,みんな片端から大手企業を受ける。これも洗脳ですよね。”

”私のクラスでも三洋電機に採用が,一人決まりました。そのすぐ後に,200人ぐらいいる大講義室の授業にちょっと遅刻して入ってきたら,みんなから「おめでとう」という大拍手が自然にわき起こったんです。「大手企業・エリートコースへの就職,おめでとう」という大拍手が自然にわき起こったんです。”

”みんなが,自然に,です。洗脳ですよ。今,見てくださいよ。三洋電機はつぶれかかって,パナソニックに買収されてしまいました。”

”みなさんみたいな若い人は,今,こうした大手企業に行ったらダメですよ。もう永遠のサラリーマンで悲惨ですから。”

理工学部のスーパーエリートコースと言われているのは,大手企業に入り,年収300万円くらいのヒラからスタートして,5年目でやっと主任,係長。10年目で年収500万円くらいの課長,20年かちょっとで年収1000万ちょっとぐらいの部長,というコースだと中村さんは説明します。

”こんな「エリートコース」を夢にしたらダメですよ(笑)。やめてくださいね。”

”日本の大学の最低なところは金儲けのことをいっさい教えないことです。一番大事なのは金儲けのことじゃないですか。大学だけでなく中学・高校と,アメリカの教育の一番は金儲けについてです。だって金を儲けて生活することは一番大事なことでしょう?大学受験じゃないんですよ。金儲け,つまりは生き方が分からないから,大学生は子ども扱いされるわけです。私もそうでした。大学受験しか教えていなくて,生きることの勉強を一切教えてくれないから。大学に入って何をしていいか分からないんですよ。”

3. 研究者の理想の姿は?

 中村さんは現在カリフォルニア大学で教授をされていますが,生徒たちは卒業後みんなベンチャー企業に入るか,あるいは自分でベンチャー企業を興すそうです。大手企業に就職して永遠のサラリーマンでいいというのは,自分のことをできが悪いと思っている生徒なんだとか。

”アメリカの大学で最も人気が高いのは工学部です。それは金が稼げるから。私はよく「金の亡者」と言われますけど,みなさん,なぜ仕事をするかというとお金を儲けて生活をするためでしょう?金をどんどん稼ぐのはいいことなんですと。この点についても日本人は洗脳されています。金に無頓着で,汚い白衣を着て,研究室に閉じこもって黙々と研究する---これが日本の理想の科学者像です。とんでもないですよ。これは完全に日本の洗脳です。アメリカでは理想の科学者とはがっぽり稼ぐ科学者です。みなさんだって,同じ仕事をするなら,たくさんお金をもらった方が嬉しいでしょう? ”

 理工学部はアメリカで一番人気があり,それはベンチャーで稼げるからだそうです。中村さんは学生にベンチャーまたは小さい会社に行くことを勧めます。それは中村さんご自身が,小さな会社で設備や資金が豊富とは言えない環境の中,研究・開発から製造,品質管理,営業,販売をし,そして会社に理解されず苦労しながらも特許を書き,管理し,費用もなんとか工面するという何でも自分でする経験が今に生きているからのようです。

”大手企業のいいところはと言えば,いろいろな設備があるところです。大学だと思って行けば最高の場所なんです。いろいろな設備に加えて,優秀な人材がいるでしょう?たとえば東芝なら東芝大学,パナソニックならパナソニック大学と思って,そこでいい技術を勉強して,4,5年で卒業する。そして自信があったら自分でベンチャーをやったり,ベンチャーに行ったりすればいいわけです。あるいはまだベンチャーに行く自信がなかったら,東芝大学を卒業して,さらにパナソニック大学に行く。そうやって何年か大学に行って,自信がついたら,ベンチャーに飛び込めばいい。それでも自信がない人はその大学で永遠のサラリーマンをやればいいと思います。

でも,大企業に永遠にいるのはダメですよ。会社はどんどんやめるべきだと私は思います。私の年代の人間は完全に洗脳されましたから,会社を途中でやめるなんてとんでもないことだと思っていましたが,そんなことはありません。A大学,次はB大学と技術を吸収して,どんどんやめて,自分でベンチャーをやればいいと思います。”

 

4. ベンチャーの失敗,アメリカでは投資家の責任。日本では誰の責任?

”日本にはアメリカのようなベンチャーキャピタリストがいないので,ベンチャーを始めるのは資金面で大変です,アメリカにはビル・ゲイツのような大金持ちの人がいて,彼らがベンチャーに投資するのですが,そのベンチャーが失敗したとしても何も対価を求めません。

日本にはベンチャーキャピタリストがいませんから,ベンチャーをやろうと思ったら銀行などに資金を借りるしかない。銀行から資金を借りる時には必ず自分の個人資産の担保がいります。だから失敗したら,全資産を取られて首つり自殺というストーリーになるわけです。

アメリカのベンチャーキャピタリストは,資金を投入したベンチャー会社が失敗しても,それは彼ら自身が失敗したということなので,ベンチャー会社に対しては何も求めない,その違いがあります。 ”

 お金儲けの方法を学びたい場合には,ベンチャービジネスをやることですが,このような理由でアメリカに行くのが一番手っ取り早いと中村さんはおっしゃっています。

そして,日本企業がグローバル競争に遅れていることも深刻な問題だと指摘されています。

シリコンの半導体,携帯電話,液晶,太陽電池,これらはすべて技術的に世界で最初に一番良いものを作ったのは日本ですが,マーケットは日本国内だけだったために,世界市場を他国の企業に占領されてしまいました。

”それはどうしてか。それは日本が島国で,日本人は英語ができないからです,英語というハードルがあるから。先ほど言われなかったのですが,みなさん,海外に出なければダメですよ。今,若い人たちはますます海外に出なくなっていますが,年単位で,最低4,5年は海外に出てください。旅行ではダメですよ。どこでもいいから,外から日本を見ると,今まで完全に洗脳されていたことに気づき,そこから覚醒するはずです。特にベンチャーをやりたい人は,ベンチャーのシステムが最もよくできているのがアメリカですから,やはりアメリカがいい。アメリカのシリコンバレーやMITなどに行ったらベンチャーだらけですから,自然にベンチャーのノウハウを学びますよ。そうすると英語もできるようになります。何年かしてから日本に帰ってきて,日本の企業のグローバル化に貢献してください。 ”

 

 

5. アメリカと比べると疑問だらけ?日本の司法制度。

 

”ハリウッドで一番多いのは裁判映画ですが,それは正義が悪をまかすシーンに観客が感動するからです。

日本では正義なんかどうでもいいんです。証拠がなくて,真実が分からないから,裁判長は正義が悪をまかすなんてことはできない。だから日本では裁判が始まった瞬間に判決が出ているんですよ。判決は「落としどころ判決」と「利益衡量」の2つです。原告と被告の言い分を足して2で割ったのが「落としどころ判決」。どちらを勝たせたらどれだけ多くの人が利益を得るかを考慮して判決を出すのが「利益衡量」。たとえば昔,公害裁判がありましたが,この裁判の被告は大企業と国です。国が勝ったら全国民が利益を得るでしょう?このため,国と大企業を勝たそうとするのが,「利益衡量」です。この両者の判決には,アメリカの裁判での判決で一番,重要視される「正義」の概念が全く含まれていません。データがないのだから,弁護士も仕事がありませんね。”

 このような日米の違いを強く主張されているのは,中村さんが日米両国で同時期に裁判を経験されたからです。

中村さんは,アメリカに渡った後,元の会社から企業秘密の漏洩でアメリカで訴えられて,その1年後に相当対価で,日本で相手を訴えたのです。アメリカでは被告,日本では原告です。

証拠開示義務については,アメリカではすべての証拠を出さなければならず,事務所にある本から何から全部コピーして持って行かれ,銀行の預金通帳,クレジットカードはもちろん,コンピュータにしてもデスクトップからノートパソコンまで全部,Eメールもすべてチェックされたそうです。

一方日本では,証拠開示義務は一切なく,開発に当たっての元部下や実験ノートなどの提出を希望しても出さなくてもいいと言われたそうです。

アメリカでは,証拠をたくさん出したら,次は証人尋問です。証人に拒否権はなく,中村さんは証人尋問を述べ約1週間,朝の9時から5時まで徹底的にされたそうです。それも相手の弁護士事務所でビデオを撮られながら,質問に対してすべて真実を言わなければならなかったのです。

日本では,この証人尋問もないに等しく,形式的に一人だけ,2時間ぐらい行われたそうです。

アメリカでは大講義室ぐらいの量の証拠を出して,そこからいい証拠をかき集めて,いいストーリーをつくって裁判をするのに,証拠なしで日本の弁護士さんたちは,毎日準備書面というものを書いて裁判所に出していることに,中村さんは疑問を持たれたようです。

アメリカでは原告と被告の弁護士と裁判長がその場で激論を交わし,毎日朝の9時から5時まで,1週間続けて法廷で裁判をするのに,日本では最初の法廷は5分か10分で終わってしまいました。2回目以降もそれは続き,1,2年間これを繰り返して,ある日判決文を読むのです。

”オーマイガッドですよ。

しかも404号特許裁判ですから,技術の戦いです。でも,まともに読んで理解しているかどうかも分からないし,まず読んでいるかどうかもクエスチョンマークです。それで判決文を読んだら,テレビや新聞などのマスメディアが一般に広めて,それをみなさん,遵守する。日本の裁判は無茶苦茶でしょう?”

”こういう話をロスアンゼルスの日本人会で話したところ,質疑応答で45,6歳のにとが手を挙げて,「中村先生のおっしゃるとおりです。私は日本で弁護士をやっていました。でも日本で弁護士をやっていると,法廷でお互いが嘘を言いたい放題なので,あきれて,私はアメリカに来ました」とおっしゃっていました。いい例がホリエモンです。彼はインサイダー取引で100億円も200億円もつくったのに,1年間ぐらい刑務所に入って,罰金が数億円で終わります,アメリカでもエンロン事件という同じようなインサイダー取引の事件がありました。こちらは,会長,社長,副社長の3人に禁固刑200年,罰金何千億円という判決が下りました。もう一生出られません。これも懲罰的判決なのです。日本はやったもの勝ちですが,アメリカはそういうことはありません。どんな人,どんな権力者でも許されないのです。”

”司法制度は最も大事であり,日本でベンチャーが育たない理由のひとつは,司法制度が腐っていることがあります。ベンチャーの人たちは「大企業保護だから」とよく言いますが,確かにすべて「利益衡量」です。だからベンチャーが育たない。ですから日本の司法も変えないとダメですね。司法制度がしっかりしないと,個人が権力者に立ち向かえないんです。アメリカではベンチャーを始めたら必ず最初に雇うのが弁護士です。契約書などさまざまな法的なことで大企業と闘わなければなりませんから,弁護士は絶対に必要なのです。 ”

中村さんが知っている升永俊英弁護士は日本で一番稼いだ弁護士で,アメリカに10年ほど滞在し,アメリカで弁護士資格も取った方。中村さんは,弁護士の方もシリコンバレーに行った方がいいんじゃないかなとおっしゃっています。ストックオプションのシステムや契約書の種類などいろいろ学ぶことができるからです。

”特に若い人は,大企業に勉強しに行くのならいいのですが,永遠のサラリーマンはやめてくださいね。世界を変えるのはベンチャー。みなさん,是非ベンチャーをめざしてください。”

 

引用元
2011年11月12日
慶応義塾大学 人間教育講座

http://koara.lib.keio.ac.jp/xoonips/modules/xoonips/download.php/KO50001001-20110000-0179.pdf?file_id=70610